人材教育のために、企業はこぞってeラーニングを導入している。しかし、現場では義務的な消化に留まっており、成果につながる本質的な学びにはなかなか繋がらないという現状がある。
人事マネジメント・組織行動論の第一人者である学習院大学の守島基博教授は、真の「アクティブラーニング」の実践には、個人のキャリア意識と、それを支える企業の「覚悟」が不可欠だと話す。企業と個人との関係性、変化の時代を生き抜くための「人材教育」について聞いた。
教育はコストから投資、そして「企業価値」の差別化へ
従来の社員教育と人的資本経営における教育の違いは、「目的と出口設計」だと守島教授は解説する。そもそもの人的資本経営とは、技術やお金ではなく「人」を差別化要因とし、その価値を高めることで企業価値を向上させる経営戦略だ。そのため、人材育成はコストではなく、競争優位の源泉となる「投資」と位置づけられる。
そして、個人の価値が上がった結果として、「利益が出る」「株価が上がる」「独自の戦略が実現できる」といった、企業全体の価値向上に直結することが「出口」として求められる。人の価値向上による企業価値の向上という、目的や出口を明確に意識して行うのが、人的資本経営である。
しかし、人の価値はそう簡単に数値化し、企業成果との因果関係を示せるものではない。よく使われる指標として「エンゲージメントスコア」が挙げられるが、実はこのスコアをやみくもに高めることは、同時にリスクも伴う。数値化して可視化する努力は不可欠だが、高すぎるエンゲージメントは、企業への盲目的な依存につながりかねない。例えば、企業が不祥事を起こした際に自浄作用が働かなくなる可能性が考えられる。個人の自律と組織への貢献、その健全なバランスが重要となるのだ。
学習院大学 守島基博教授
今こそ問われる「何をどう学ぶべきか」
変化の激しい現代において、今最も学ぶべきものは何かという問いに対して、守島教授は「『学び方を学ぶこと』が重要だ」と断言する。例えば、ここ1、2年でAIが単なるツールから仕事の「パートナー」へと進化したように、今後も予測不能な変化が続くだろう。今持っているスキルが、数年後には時代遅れになっている可能性も十分にある。
そうした中で価値を生み出し続けるには、特定の知識やスキルを習得するだけでなく、常に新しいことを学び続けるための姿勢や考え方、つまり「学習能力」や「学習戦略」を高めることが不可欠になる。
未知の課題に直面したとき、それを乗り越えるために何をどう学ぶべきかを自ら考え、実行できる力こそが、これからの時代を生き抜くための最も重要なスキルと言える。
eラーニングの限界と「アクティブラーニング」の本質
社内教育においては、現在多くの企業がeラーニングを導入していることだろう。eラーニングは、各自の業務状況に合わせた学習やスキマ時間での学習が可能なことに焦点が当たりがちだが、守島教授はその目的は単なる「効率化」ではないと指摘する。eラーニングを社内教育に活かすには、「多様なプログラムの中から、自らのキャリア目標の実現に必要な学びを主体的に選択すること」、つまりアクティブラーニングを目指すことこそが重要である。
しかし現実には、各自が受け身の学習に留まってしまうケースが多い。その背景には、従業員が「何を学んでどうなりたいか」というキャリア意識を明確に持てていないという課題があるからだ。真のアクティブラーニングとは「自身のキャリア目標から逆算し、必要な学びを自ら考え、実行していくこと」だと教授は定義する。
この考え方は日常業務にも通じる。与えられたタスクを粛々とこなすだけではなく、一つひとつの業務に「この仕事を通じて何を達成したいのか」という目的意識を持つことが重要だ。例えば、インタビューという仕事一つでも、テーマについて学びたいのか、それともその内容を人に伝えたいのかで問いの内容や深さが変わる。
その積み重ねがキャリアを形成し、学びと成長の質を大きく左右するのである。
