アディダスが掲げる「サッカーを競技の枠を超えたカルチャーとして捉える」というブランド姿勢は、どのように具現化され、市場へアプローチしたのか。同社ブランドコミュニケーションズ シニアマネージャーの髙橋慶多氏への取材をもとに、本プロジェクトの戦略的意図と、日本のポップカルチャーを組み込んだマーケティング手法を分析する。
Ado起用の理由は? 「世界へ挑む圧倒的な表現力」との共鳴
今大会におけるサッカー日本代表ユニフォームのコンセプトは、ホームが「HORIZON(水平線)」、アウェイが「COLORS(カラーズ)」であり、「まだ見たことのない景色」に向かって果敢に進んでいく日本代表の挑戦の姿勢を表現している。アディダス ジャパンの髙橋慶多氏は、クリエイティブパートナーの選定において、単なる認知度や人気の高さだけでなく、このコンセプトをストーリーとして体現できる存在が必要だったと説明する。
歌い手のAdoが選ばれた理由は、世界市場への挑戦を続けている点、そして表現者としての歩みが日本代表の目指す「挑戦の姿勢」と高い親和性を持っていたためである。ブランドの思想とアーティストのコアにあるストーリーを合致させることが、パートナーシップの前提となった。
本施策の本質的な狙いは、従来のサッカーファンとは異なる「ライト層」や「音楽ファン」へのターゲット拡張にある。アディダスは、サッカーを競技としてだけでなく日常の「カルチャー」に昇華させる戦略をとっており、音楽をフックに新規接点を創出する狙いがあった。
このアプローチは定量的な成果としても表れており、パートナーシップを発表した昨年12月から今年4月までの期間で、国内で44億、全世界では180億を超えるポテンシャルリーチを獲得した。ビジュアルによるアプローチに加え、「ユニフォームソング」という聴覚的なタッチポイントを日常に組み込んだことで、ブランドおよびプロダクトへのエントリー層を拡張することに成功している。
単なるタイアップを超えた「アンセム」の設計
2026年4月に発表されたユニフォームソング『綺羅』はキタニタツヤ氏が作詞・作曲を手掛け、アニメーションCMとともに展開された。ここでアディダスが重視したのは、商業的なタイアップソングの枠に留めず、プロダクト(ユニフォーム)を通じて選手とファンを結ぶ「アンセム(主題歌)」として機能させる設計である。
作詞・作曲にキタニタツヤ氏を起用し、Adoのボーカルの強みを最大化するギターロックサウンドを構築。この楽曲の世界観を映像化するにあたり、アニメーションCM「もっと、先へ。もっと、自由に。」では「架空のFIFAワールドカップ決勝」という設定を設けた。
