生成AIの活用が広がる中、企業の顧客対応窓口にもAI導入が加速している。DMMグループの “事業創造会社” であるAlgoage(アルゴエイジ)は5月、企業のカスタマーサポート(CS)領域における業務支援から自動応答までを一気通貫で支援するサービス「SureSide(シュアサイド)」の提供を開始した。オペレーター支援から始め、現場でAIを育てながら段階的に自動化を進める点が特徴だ。
「コールセンター」ともいわれるコンタクトセンター機能は企業にとって重要な顧客接点である。的確で迅速な顧客対応が求められるとともに、日々得られる情報をいかに社内に還元するかも重要なテーマのひとつだ。業務を支援する各種ツールも増えているが、「導入したものの現場で使われない」「運用負荷が増えてしまった」といった課題を聞くことも少なくない。
AI時代のコンタクトセンターに求められる役割と顧客体験のあり方、人とAIが共創する未来とは――。ECを主戦場に顧客接点の強化に取り組むファンケルの長谷川敬晃氏と、Algoageの横山勇輝CEOが語り合った。
AI時代だからこそ、顧客体験の本質が問われる
長谷川:コンタクトセンターに求められることとして、適切な返答は以前から重要なことですが、現在はメールなどのデジタル上でのお問い合わせに対する回答スピードへの要求も高まっています。そして、お客様が期待する体験は多様化しており、一人ひとりの状況や気持ちに寄り添った対応が、これまで以上に求められているといえます。
ファンケルでも、お問い合わせの背景にあるお困りごとや不安まで理解しようとする姿勢が、AI・デジタルが進化する時代でも変わらない価値だと考えています。
ファンケル グループIT本部 情報システム部 部長 長谷川敬晃 氏
横山:私も同じ課題意識を持っています。生成AIの進化によって、できることは大きく広がっています。一方で、AIは導入すればすぐに現場で十分に機能するほど単純なものではありません。
人であれば、研修やロールプレイを経た後、現場でOJTを受けながら少しずつ対応力を身につけていきます。しかしAIの場合、PoC(概念実証)で一定の精度が確認できると、そのまま本番の顧客対応に移行してしまうケースがあります。そこで十分に対応できなければ、設定やチューニング、フォローを現場が担うことになり、かえって負担が増えてしまいます。
だからこそ、AIを自動化、効率化のためだけに使うのではなく、まずは現場で働く人を支える存在として活用することが重要だと考えています。現場をAIで支援し、その中でナレッジや対応力を高めていく。そうした考え方が、SureSide開発の原点になっています。
Algoage CEO 横山勇輝 氏
AIは「育てながら使う」発想へ
横山:私たちが開発で目指したのは、「最初から完璧な自動化を目指さない」ということです。
コンタクトセンターには、FAQやマニュアル、応対履歴など、多くのナレッジがあります。しかし、それらは部署やシステムごとに分散し、十分に活用できていないケースも少なくありません。そこでSureSideでは、まずナレッジを一元管理し、オペレーター支援からスタートします。現場で利用される中でナレッジや対応パターンが蓄積され、精度が高まった業務から段階的に自動化していく。このプロセスを重視しています。
SureSideはナレッジの一元管理から始まり、徐々にサポート領域を広げていく
長谷川:この考え方には私も深く共感します。企業にとってAIは、導入すること自体が目的になりがちですが、そうではありません。重要なのは、お客様への提供価値を高めることです。AIが情報検索や応対履歴の整理などのサポートを担うことで、オペレーターはお客様との対話により集中できるようになり、“正しく答えること” の上の次元の “お客様にご満足いただくための対話” を目指すことがます。その結果として顧客体験が向上するのであれば、それがAIを活用する本来の意義ではないでしょうか。
また、最初から100点を目指すのではなく、現場で活用しながらAIをより良く育てていくという考え方は、導入したが合わなかったとならないためのリスクヘッジでもあり、ひいては担当者の育成にもなるので、継続的な活用にもつながると感じています。
横山:そうですね。AIは一度導入して終わりではなく、現場で使われる中で成長していくものです。だからこそ、オペレーターが日々利用することでナレッジが蓄積され、その学びが将来的な自動応答にも生かされる仕組みをつくりました。AIが現場に合わせて進化することで、人にも企業にも無理のないAI活用を実現したいと考えています。
顧客の感情に応じた対話をAIがサポート
長谷川:AIが普及すると、「人の仕事がAIに置き換わるのではないか」という声もあります。しかし、私はむしろ、人だからこそ提供できる価値がこれまで以上に重要になると考えています。
お問い合わせの中には、すぐに答えられるものもあれば、お客様自身も言葉にできていない不安や迷いを抱えているケースがあります。そうした気持ちを受け止め、一人ひとりに合った提案や安心感を届けることは、人だからこそできる役割です。
横山:私たちも、その考え方を大切にしています。AIは単純な問い合わせへの回答や定型的な業務を効率化するだけでなく、現場で働くオペレーターを支援するためにも活用できると考えています。例えば、お客様との会話や過去の対応、蓄積されたナレッジをもとに、「こういう提案がお客様の役に立つかもしれない」とAIがオペレーターをサポートすることもできます。そうすることで、オペレーターはAIの設定やフォローに追われるのではなく、目の前のお客様との対話により集中できるようになります。
長谷川:そうですね、効率化そのものが目的ではなく、その先にある顧客体験の向上につながることが大切です。AIと人がそれぞれの強みを生かすことで、これまで以上に質の高いコミュニケーションが実現できるのではないでしょうか。
AIと人が共創するコンタクトセンターへ
横山:AIは導入しただけでは価値を生みません。PoCで一定の精度を確認しただけで完成と考えるのではなく、現場で使われ、改善を重ねながら成長していくことで、初めて成果につながります。
SureSideでは、現場で蓄積される問い合わせ履歴やナレッジを活用しながらAIを成長させていく仕組みを採用しています。人がAIに合わせるのではなく、AIが現場に寄り添いながら進化していく。その考え方が継続的な成果につながると考えています。
目指すのは、人とAIの共創基盤
長谷川:企業側にも、「AIなら何でもできる」という効率化の期待だけではなく、「AIと人が協力することで、お客様へどのような価値を提供できるか」という価値向上の視点が求められていると思います。AIを導入すること自体が目的ではなく、その先にある顧客体験の向上を見据えることが重要です。
横山:生成AIは、コンタクトセンターの在り方を大きく変える可能性を持っています。ただ、その変革はAIが人に替わるということではありません。AIと人、それぞれの得意分野を生かしながら、より良い顧客体験を実現することが重要です。私たちはこれからも、現場で自然に使われるAIを通じて、企業とお客様の双方に価値を届けていきたいと考えています。
長谷川:コンタクトセンターは、問い合わせに対応するための部門ではなく、お客様の声を直接受け取り、企業の改善につなげられる重要な接点だと考えています。VOC(Voice of Customer=顧客の声)をしっかり分析し、商品やサービスの改善につなげていくことは、結果として顧客満足だけでなく、企業の価値や利益にもつながっていきます。
そのためには、コンタクトセンターを単なるコストセンターとして捉えるのではなく、企業価値を生み出す重要な機能として、経営がしっかりコミットしていくことも必要だと思います。AIが得意な領域を支援することで、人がお客様との対話や、そこから得られる気づきにより集中できるようになれば、コンタクトセンターの役割はさらに大きくなっていくのではないでしょうか。




