広告が“受け入れられる瞬間”を捉える 新指標「広告受容度」の可能性

テレビをはじめとするマスメディア、さらにデジタルからオフラインの店頭での行動までがデータでつながるようになったことで統合的なメディア投資戦略にイノベーションを起こす新たな取り組みが始まっています。本連載では企業・メディア・広告会社それぞれの領域で、データを活用した新たな広告・メディア戦略の取り組みをレポートしていきます。今回は講談社/JIAAメンバーの長崎亘宏氏を迎え、博報堂が開発したテレビCMの効果測定における新指標「広告受容度」を起点に、これからの広告メディアビジネスが目指すべき未来像について語り合いました。

(写真左から)講談社 ライツ・メディアビジネス本部 局次長 / 日本インタラクティブ広告協会(JIAA)理事 長崎亘宏氏、博報堂 統合メディアプラニング局 メディアプラニングディレクター 森亮介氏。

クリエイティブの変数を除外し メディア接触の影響値を抽出

━━情報量が増え続ける中で、広告においてはアテンションを獲得するだけでなく、その先の広告の「受容」というテーマが重視されつつあります。お二人は、このテーマについてどのような課題を持たれていますか。

:商材やブランドの認知獲得において、多くの生活者に情報を届けられるテレビCMやデジタル広告は欠かせません。一方で、日々無数の広告に接触する現在のメディア環境では、単にリーチを広げるだけでは生活者からの認知獲得には直結しづらく、インプレッション一つひとつの価値、つまり接触の質をどう高めるかが、広告認知やブランディング効果の向上における重要課題になっています。

長崎:私は講談社での実務に加え、JIAAなどの各種業界団体での活動を通じて長年メディアと広告のあり方を見つめてきました。その中で実感するのは、森さんがおっしゃるように広告体験における受容性の向上が喫緊の課題だということ。同額の予算を投資しても広告の認知率は低下しているというデータもあり、生活者が1日に4000もの広告に触れる中で、リーチした先での広告受容度は低下している懸念があります。広告を見たかという「視認」の軸だけでなく、生活者が無理なく広告を受け入れやすい状況やタイミングを的確に捉えるアプローチへの転換が必要不可欠です。

━━広告界では、この課題に対して具体的にどのようなアプローチが進められているのでしょうか。

:博報堂は2025年3月、テレビ広告プラニングの新指標として「広告受容度」を開発し、「TV AaaS」※に組み込みました。20年間にわたり蓄積した独自のテレビCM定点調査データを活用し、曜日、時間帯、番組ジャンルから「視聴者が広告を受け入れやすい状況・タイミング」を高度な統計解析によって定量化したものです。

この指標がTV AaaSに組み込まれたことで、商材や訴求内容に応じた精緻なプラニングを可能にしています。このソリューションでは、テレビCMへの印象データと放送枠の接触データを掛け合わせ、クリエイティブの変数を除外することで、メディア接触パターンそのものが持つ生活者への影響値を抽出しています。

これにより、テレビCMを見ている生活者の心がどんな状況にあるかという「モード」を捉えられるようになりました。

※博報堂が提唱する、広告主の投資効率を最大化するための次世代型広告モデル「AaaS(Advertising as a Service)」におけるソリューション。テレビCMに特化して広告効果の最大化を目指し、モニタリングやPDCA運用を行う。

長崎:クリエイティブの要素を除いた「純粋なメディア接触の質」の指標化は画期的ですね。検証でも、ターゲットの属性によって広告受容度は大きく異なると伺いました。

:はい。商品や企業のプロモーションにおいて、ターゲットの属性の違いで広告を受け入れやすい時間帯に顕著な差が出ています【図1】。

例えばあるカテゴリーにおける20代男性では、仕事モードの日曜夜は広告受容度が極めて低いのに対し、仕事から解放されてリラックスしている土曜朝は広告受容度が高くなるといった傾向が見えてきました。

長崎:機械的なターゲティングだけに頼りすぎて広告を受け取る生活者の気持ちを見落としてしまうと、ブランド好意度を損なうリスクがあるので、ターゲットが受け入れやすい広告枠を特定できることは、広告主にとっても納得感があります。

━━企業における宣伝部門の役割が変化し、購買以外の目的を持つ広告も増えていると言われます。

長崎:近年、宣伝部門の社内ポジションが営業から経営サイドへとシフトしています。日経広告研究所『広告主動態調査(2026年)』によると、広告宣伝費に占める企業広告の割合が調査史上初めて20%を超えました。長期的なファンづくりやブランドイメージ、信頼構築を重視する流れがより強まっています。認知獲得など短期的な成果を狙う「ファスト・アドバタイジング」だけでなく、信頼や真正性をゴールにする「スロー・アドバタイジング」という考え方が今後いっそう重要になると思います。

:「スロー・アドバタイジング」の概念には非常に共感します。これまでの運用型広告は効率性のみを求めて、型にはまった最適化に偏りすぎていた面があります。これからは単に生活者の時間を奪い合うのではなく、生活者がどんなモードの時に広告に触れれば暮らしを豊かにできるかという視点を持たなければなりません。既存の効率的な広告運用に「広告受容度」のような新しいエッセンスを加え接触の質を高めていくこと。同時に、生活者が能動的に楽しめるメディアのあり方やフォーマットを、媒体社さんと共創していくことが重要だと感じています。

━━最後に、これからの広告メディア環境において期待することをお聞かせください。

長崎:従来型の広告メソッドをアップデートしていくと同時に、予測が困難な時代に対応した、全く違うモデルや形を皆さんとつくっていきたいですね。「AaaS」にも中長期的なファンベース構築やロイヤリティといったスロー・アドバタイジングの概念がさらに組み込まれ、引き続き広告主の事業目標の達成に貢献していくことを期待しています。

:「枠から効果へ」というAaaSの理念に則って固定観念にとらわれない新しい形をつくり、インプレッションの質を高める今回の「広告受容度」のようなエッセンスを加えながら、媒体社さんと一緒に、生活者に必要とされるメディアメニューや基準をしっかり定義していきたいと思います。

編集協力:株式会社博報堂

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