『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、IR支援を行うウィルズの間宮孝治さんが『パーパスの浸透と実践』(齊藤三希子著)を紹介します。
「つくる」から「浸透と実践」へ
日本企業の間でも「パーパス」という言葉が広く知られるようになった。中でも印象に残っているのが、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2019年3月号の特集「PURPOSE(パーパス)―会社は何のために存在するのか あなたはなぜそこで働くのか―」である。当時、私の周りでもハードコピーを取って回し読みしていたことを思い出す。
ただ、それ以前から、日本企業向けにパーパスを読み解き、わかりやすく紹介してきたSMO社の役割は大きいだろう。パーパス自体の理解に当たっては、まず同社の書籍『パーパス・ブランディング』を先に読まれるといい。
それから年月が経ち、パーパスを掲げる企業は増えた。統合報告書やコーポレートサイトの冒頭に、パーパスが置かれていることも珍しくない。だからこそ、次の問いが浮かび上がる。
「パーパスを定めた後、どうするのか」。
本書『パーパスの浸透と実践』は、タイトルの通り、パーパスを「つくる」ことよりも、その先にある「浸透と実践」に重きを置いた一冊である。
『パーパスの浸透と実践』(齊藤三希子著)
定価2,000円+税
パーパスは「つくって終わり」ではない
パーパスの定義は、コンサル会社などによって諸説ある。私自身、かつて広告代理店でパーパス策定に携わっていた際には、「社会的存在意義」と捉え、社会課題を下敷きとした考え方として扱っていた。当時は「パーパスデザイン」と称して、①パーパスを探索する⇒➁パーパスを定義する⇒➂パーパスをワークさせる、というモデルを提唱していたのだが、本書を読むと、この「ワークさせる」ことこそが難しいのだと、あらためて考えさせられる。
パーパスは、美しいステイトメントを掲げれば機能するわけではない。社員の意思決定や行動にどう結びつくのか。戦略や事業にどう接続するのか。
パーパスは「掲げるもの」ではなく、「経営や組織の中で機能させるもの」である。
本書のタイトルにあえて「浸透」と「実践」という二つの言葉が置かれていること自体に、パーパス経営の難しさが表れているように思う。
統合報告書から見える「実践」の難しさ
これは、統合報告書を見てもよくわかる。統合報告書では、パーパスやビジョンはページの前半に置かれることが多く、「価値創造ストーリー(プロセス)」においても最上位概念として描かれる。
しかし、後段の戦略や事業、人的資本、各CxOのメッセージへと読み進めていくと、冒頭で掲げられたパーパスとのつながりが途切れてしまうケースも少なくない。価値創造ストーリーについても、「社名を変えても成り立つ」と投資家から痛烈に批判されることがある。
問われているのは、言葉としての美しさだけではない。
パーパスと戦略、事業、そして日々の企業活動が、どこまでつながっているのか。
その意味で、統合報告書は、企業がパーパスをどこまで「実践」できているのかを映し出す、一つの試金石ともいえる。
