統合報告書は、いまや企業の価値創造のストーリーを伝える重要なコミュニケーションツールとなった。一方で、その制作に携わる人ほど、「これほど多くの情報を集め、整え、統合したのに、なぜ企業の“いま”が伝わらないのか」という違和感を覚えたことがあるのではないだろうか。本書『さよなら統合計画書』は、まさにそういった違和感を出発点に、IR支援会社のリーディングカンパニーと東大 松尾研発AIスタートアップによって上梓された、統合報告の次なる姿を問い直す注目の一冊である。
本書が批判するのは、統合報告そのものではない。問題は、それが「年に一度つくる完成品」になっていることだ。企業の経営は日々動き、戦略も、組織も、顧客との関係も変化している。それにもかかわらず、情報収集から原稿作成、編集、デザイン、校正、翻訳、承認まで半年以上をかけて一冊に仕上げる。その過程で、経営者が語った生の言葉はお行儀の良い文章へと変換され、部門ごとの情報は“統合”されるどころか、制作会社によって後からつなぎ合わされる。結果として、企業のリアルな「生き様」である「なりわい」の息づかいがごっそりと抜け落ちてしまう。
『さよなら 統合報告書』(株式会社ウィルズ / 株式会社パンハウス著)定価2,000円+税
ここで本書が示す「RX(Reporting Transformation)3.0」という構想が非常に興味深い。統合報告を、PDFで作成された報告から、常時更新される情報と対話のプラットフォームへと変える。財務・非財務データ、ナラティブ、ビジュアルを統合し、AIやデジタル基盤によって、企業活動とコミュニケーションを連動させる。つまり、企業報告とは「報告書をつくる」のではなく、「企業と社会の対話を運営する」というプロデュース的な発想を基盤にしたものになるべきなのである。
