『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、エスエムオーの齊藤三希子さんが『さよなら 統合報告書』(ウィルズ/パンハウス 共著)を紹介します。
『さよなら 統合報告書』。この書籍の刺激的なタイトルを目にして、最初は統合報告書そのものを否定する本なのかと思った。しかし、読み進めるうちに、「さよなら」を告げる相手は報告ではなく、年に一度、分厚い冊子を完成させることを目的とした「形式」なのだとわかる。
統合報告書の発行企業は増えた。一方で、制作現場では、前年版を更新し、他社事例を参照しながら、求められる項目を漏れなく盛り込むことに多くの時間が費やされている。「今年も出さなければならない」という、やらされている感が生まれてはいないだろうか。これでは、統合報告書の本来の目的である、企業の価値創造を伝え、ステークホルダーとの対話を促すことが置き去りになってしまう。本来の目的を取り戻し、統合報告書を進化させよう、というのが本書だ。
『さよなら 統合報告書』(株式会社ウィルズ / 株式会社パンハウス著)定価2,000円+税
多くの報告書には、経営戦略、人的資本、サステナビリティ、ガバナンスなど、豊富な情報が掲載されている。しかし、情報が多いことと、企業価値が伝わることは同じではない。個々の施策が、企業は何を目指し、なぜそれに取り組み、どのような未来を実現しようとしているのかという、一貫した物語につながっていなければ、読み手の記憶には残りにくい。そして、何よりAIに理解されずに誤読されてしまう可能性が広がってしまうのだ。投資家、株主のAI活用が常態化しているのは大前提であることは忘れてはいけない。
一貫した企業の物語を貫く軸がパーパスであると、私は考えている。パーパスは、額縁に入れて掲げる美しいコピーではない。日々の判断や行動に意味を与え、過去に蓄積してきた強みと現在の取り組み、そして実現したい未来をつなぐ企業固有のコンテキストだ。統合報告書に求められる価値創造ストーリーとは、まさにパーパスが経営の中でどう生きているかを示すものではないだろうか。
本書が示すAIの可能性も、単なる制作の効率化にとどまらない。AIは企業に代わってパーパスを生み出すことはできないが、社内に散在する情報や知見を構造化し、パーパスを軸につなぎ直すことはできる。さらに、投資家、社員、求職者など、相手の関心に応じて、その価値を異なる言葉で翻訳できる。完成した報告書を一方的に届けるのではなく、問いに応じて情報を提示し、対話から得た気づきを次の発信に生かす。AIによって、企業報告は「年に一度の発行物」から「更新され続ける対話の場」へ変わっていく。
統合報告書に携わる人だけでなく、企業の存在意義を日々の行動と未来につなげたい人にも薦めたい一冊である。「報告書を作る」ことから、「未来を語り、ともに創る」ことへ。本書は、その転換を始めるための問いを私たちに投げかけ、その可能性と道筋を教えてくれている。
『さよなら 統合報告書』
(株式会社ウィルズ、株式会社パンハウス著/定価2,000円+税)
「統合報告書」という“形式”に別れを告げ、未来を共創する“対話”へ。東大 松尾研発スタートアップ × IR支援のリーディングカンパニーが提唱する、最先端AIによる企業報告の変革「RX3.0」の全貌を公開。IR担当者はもちろん、企業の長期的価値を築きたいと考えている企業にとって必読のバイブルです。
