こうした変化を受け、企業のクリエイティブに求められる役割も変わる。生活者に情報を届けるだけではなく、AIにブランドをどう理解してもらい、生活者にどう「語り直して」もらうかまで設計する必要がある。
9月16日に都内で開かれた「アドタイ・フォーラム」(宣伝会議主催)では、「AIは、あなたのブランドをどう代弁しているか ― BtoAtoCで変わる『顧客接点』と、広告・PR・SEOを横断する新クリエイティブ戦略」と題し、PLAN-Bマーケティングパートナーズ AIマーケティング本部 本部長の出田晴之氏が登壇。AI検索時代におけるブランドとクリエイティブのあり方について語った。
「AI検索対策」は新しいSEOなのか
生成AIの普及に伴い、「LLMO(大規模言語モデル最適化)」「GEO(生成エンジン最適化)」「AEO(回答エンジン最適化)」など、AI検索への対応を示す新たな言葉が次々と登場している。
一方、出田氏は、AI検索対策を従来のWebマーケティングと切り離された新しい手法として捉えることには慎重な姿勢を示す。
PLAN-Bマーケティングパートナーズ AIマーケティング本部 本部長 出田晴之 氏
講演では、ChatGPTに「五反田でおすすめのラーメン屋さん」を尋ねたところ、自社Webサイトを持たない店舗が上位に推奨された例を紹介した。AIが参照するのは企業の公式サイトだけではない。プレスリリースなど企業自身の発信に加え、報道やレビュー、SNSなど第三者による情報も含め、Web上にあるさまざまな情報をもとにブランド像を形成しているという。
そのため、必要となる施策もオウンドメディアの強化やデジタルPR、UGC創出など、従来のWebマーケティングの延長線上にあるという。
変わったのは「手法」ではなく、企業と生活者の間にブランドを代弁する新たなステークホルダーとしてAIが加わったことだとした。
出田氏はこれを、「生成AIブランディング」と表現。AIにブランドを正しく理解してもらう点ではブランディングに、第三者のように振る舞うAIから生活者へ推奨してもらう点ではPRに近いという。
「チャッピー」という名の相談相手
同時に変化しているのが、生活者側の情報探索行動だという。出田氏は、Google検索が「ググる」と動詞化した一方、ChatGPTには「チャッピー」という“あだ名”がついている点に注目した。
検索という行動の代替だけではなく、生活者にとっての「相談相手」として生成AIが定着し始めているのではないかという。
実際、PLAN-Bマーケティングパートナーズが生成AI利用者を対象に実施した調査では、回答者の半数以上が、生成AIとの対話をきっかけに商品の購入や行き先を決めた経験があると回答した。AIとの対話が、購買や選択の意思決定に入り込み始めている。
特徴的なのは、AIが単に人気商品を並べるだけではない点だ。
講演では、化粧水を探していた20代女性の事例を紹介した。ユーザーが2ブランドの比較を求めると、ChatGPTは肌質や悩みなどを逆質問。その回答を踏まえ、「あなたの状況ならこちら」と理由を添えて一方のブランドを推奨した。
出田氏は、生成AIによって情報探索にかかる負担が軽くなり、従来の「みんなのおすすめ」から、ユーザーそれぞれの状況に即した「私に合っている」商品やサービスを探しやすくなったと分析する。
生活者とAIでは「思い浮かべるブランド」が違う
では、自社ブランドはAIからどのように見られているのか。
出田氏は、従来行われてきた生活者へのブランド調査を、AIにも拡張して考える必要性を指摘した。人によって思い浮かべるブランドが異なるように、生成AIでもモデルや質問の仕方によって回答が変わるためだ。
PLAN-Bマーケティングパートナーズが生命保険会社を対象に実施した調査では、生活者1000人に挙げてもらったブランドの上位10社と、同じ質問を1000回投げかけたAIの回答を比較した。
その結果、生活者とChatGPTの上位10社の重なりは8割だった一方、生活者とGeminiでは5割。ChatGPTとGemini同士では4割にとどまったという。
こうしたAI上でのブランドの見え方について、講演では米IAB(Interactive Advertising Bureau)のフレームワークを紹介。「Presence(出てくるか)」「Prominence(目立って出るか)」「Portrayal(どう語られるか)」「Persuasion(行動につながるか)」という4つの階層で捉える考え方だ。
特にブランドの「代弁」という観点で重要になるのが、「どう語られるか」である。単にブランド名がAIの回答に登場するだけではなく、どのような文脈で、どのような特徴を持つブランドとして説明されているのかを見る必要がある。
クリエイティブに加わる「学習促進」の役割
この環境変化によって、クリエイティブの役割も広がると出田氏は話す。
従来のWebコンテンツには、生活者に「届ける」という集客の役割と、「選んでもらう」という接客の役割があった。今後は、AIにブランドについて「読まれ、語り直してもらう」ための学習促進という役割が加わる。
ここで重要になるのが、「製品とは何か」という説明だけではなく、「どんな悩みを持つ誰に、なぜ向いているのか」まで明確にすることだという。
AIは公式サイトだけを見るわけではない。広告、PR、報道、比較記事、レビュー、SNS上の口コミなどを横断して情報を取り込み、ひとつのブランド像として再構成する。このため、部署や媒体ごとに異なるメッセージを発信していれば、「結局このブランドは誰に向いているのか」がAIにも伝わりにくくなる。
出田氏は「AIをハックするというより、AIを使って情報収集する生活者とどう向き合うのか、という話だと思っている。どんな状況の誰に何が向いているのかを伝えていくことが非常に重要」と話した。
生活者がAIに「私に合っているもの」を尋ねる時代。企業側には、それに答えられるよう、広告やPR、SEOといった施策の垣根を越えて、「誰に、なぜ合っているのか」を一貫して発信することが求められている。出田氏は、AIを新たな「読み手」であると同時に、生活者へブランドを伝える「語り手」と捉え、クリエイティブを設計する必要性を強調した。






