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コラム

パリから作る、日本ブランドの作り方

日本文化に見る「誠実さの伝達」

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パリにきて一年が過ぎた。
もうじき6月だというのにパリの気温は15〜16度ととても涼しい。東京では既に30度を超えた日があると聞いた。日本では花が咲いて、春一番が吹いて、梅雨がきて一雨ごとに暑くなって、日々の生活から季節の変化を感じることができる。パリでは、季節の変わり目を感じることは少ない。

昨日パリで茶道を教えているフランス人がMIWAに来た。10年以上日本にいた彼は、日本の文化に傾倒し、パリで日本の文化を広げて行くために無償で茶道を教えている。


ジル・モクさんの茶室

彼との話で興味深かったのは、季節感のこと。フランス人の多くは、日々の生活の中で全く季節を感じていないと言うのだ。彼は、人々が季節を感じて生きている日本が懐かしいし、季節を楽しむ感覚をフランス人にもわかってもらいたいと思っているようだった。

エッフェル塔の近くにある彼の茶室からは中庭が見え、茶会をする時には常に窓を開けることにしているのだとか。寒い時は寒い、暑い時は暑い。単に右左の決まりごとを教えるだけでなく、日本の文化の根幹である、自然を受け入れることを自然にお稽古の中に取り入れていることに共感を覚えた。

日本の文化はともすれば分かりにくいところがあるので、型だけが継承されていくことが多い。そして型を守ることが第一優先になり、そこに込められていたこころを忘れてしまっていることを目にすることがある。

例えば、鮨とはなにかという場合、握ったご飯の上に魚が載っているものだという型だけがフランスに伝わりどこでも目にするのはサーモンの握り。確かにサーモンはこっちだと美味しいのだが、旬の魚を食べるという文化はまだまだ輸出されていない。

もっとも、これには流通上の大きな問題がある。聞いた話だとフランスでもいろんな魚が揚がるらしいのだが、日本のように全ての魚を大きさや種類で分けたりせず、名もなき(とフランスではされている)魚は値段がつかないから捨てられてしまうのだそうだ。いつでも採れる魚は値段が安定して店頭に並ぶ。だから旬がないと聞いた。

日本には雨に関わる言葉が200以上あるらしい。フランスでは4、5しかないと聞いた。このことは日本人がいかに自然に感受性をもって接しているかを表している。魚の種類を細かく認識し、名前を付ける事も同様の感受性であり、自然から与えられたものを楽しみ、感謝するこころの表れのように感じる。

名前を与えないのは、関係を構築しないことと同義である。

hana
葉先が切られた菖蒲

花屋に行くとたくさんの花があるのだが、葉ものが全くと言っていいほどない。フランス人にとって花は意味あるものだけれども葉は意味のないものなのかもしれない。先日買ってきた菖蒲の葉の尖った先端はすべて切り落とされてしまっていた。菖蒲の葉は先の尖ったところから枯れて、黄色くなっていく。花屋では見栄えが悪いからと、枯れた部分を切り落としたのかもしれない。いずれにせよ、菖蒲の葉先の美しさを感じていないことの現れだ。

もう一つ、彼との会話の中であがったフランスと日本の違いは、transmission of sincereliy(誠実さの伝達)の話である。MIWAはヒノキでできているのだが、このヒノキを見て宮大工の相良さんは「こんな良い材をあつかわせてもらえるのなら、恥ずかしくない仕事をしたい」といっていた。彼はこの檜材を見て、きっと枝打ちをした林業の人のことや、この材を製材した人のことを思い描いたに違いない。そしてMIWAが完成し、私たちに引き渡す日に相楽さんは「心を込めて作ったので大切にしてください」と言った。私たちはそれから毎日MIWAを雑巾掛けするたびに、相楽さんがカンナを掛けた木の肌から彼の心を感じている。

こういう言葉を介さない「誠実さの伝達」こそ日本のコアな文化のように感じるのだ。たとえば鮨の場合、漁師は、美味しく食べてもらおうと思い、船の上で活け締めをし、そんな漁師の仕事に価値を見いだす仲買人がその魚を仕入れる。そして仲買人はきっちり温度を管理して美味しい状態でお店に買ってもらえるように配送業者へバトンをわたす。鮨屋がカウンターで客に出す鮨は、この「誠実さの伝達」の終着地点だ。

こういう現象は日本では,野菜や果物、氷にいたるまであらゆるところで見ることができる。今ここにあるものを感謝しその心の伝達をつないでいくこと。MIWAでは、そんなこころの伝達をつたえていくお手伝いをできればと思う。