<巻頭レポート>
顧客価値から考える企業・商品イノベーション――自社の資産を生かして、新顧客・市場を開拓する!
テクノロジーの進化によって、それまで生活や経済の中心にあった商品・サービスが、ふと気づけば時代の流れから取り残され、産業自体が衰退してしまう…。企業は常に、そんな危機にさらされています。特にデジタル化が急速に進む現在は、私たちの生活は日々劇的に変わっており、そこで必要とされる商品・サービスも大きく移り変わっていきます。
例えば、コンパクトデジタルカメラの市場がスマートフォンに侵食されてしまったように、競合他社の動きだけを見ていると、時代の変化の中で、その市場自体が衰退してしまうリスクもあるのが、消費者変化の激しい今の時代の課題です。
自社の資産を活かしながらも、時代に合わせた業態変革を実現するには、どうしたらいいのか。その方法論を考えていきます。
産地ではないことを強みに
広島県広島市に本社を置く、「お茶の駿河園」。創業59年、元々は茶葉の卸販売を手掛けていた同社だが、「本物の抹茶のおいしさが伝わるお茶とお菓子をつくりたい」との思いから、10年ほど前に抹茶専門店「茶ちゃのわの環」をオープンした。広島市内の本店のほか、現在は百貨店を中心に全国4店舗を展開している。
同店が取り扱う、抹茶ロールケーキや抹茶バターケーキといった抹茶スイーツは、テレビなどのメディアに取り上げられたことをきっかけに、着実に人気と認知を拡大している。
「お茶」と「広島」。両者のイメージがうまく結び付かない人も多いだろう。そう、広島はお茶の産地ではない。駿河園の始まりは、代表取締役 CEO・大淵光広氏の父が、お茶の一大産地である九州の八女から広島へと移り住み、開業したことに遡る。
「地元・九州で愛されるお茶を、あえてお茶の産地ではない広島で広めてみたい。そんな“フロンティア精神”があったのだと思います」と大淵氏は話す。
当時の広島は「番茶市場」、つまり抹茶や深蒸し茶といった濃いお茶を飲む習慣はなく、良いお茶を仕入れても買ってもらえない、そんな市場だったという。そんな環境もあってのことか、28歳で家業を継いだ時、大淵氏は緑茶市場の現状に強い危機感を抱いたという。
「お茶の消費量は減り続け、ペットボトルのお茶が多く市場に出回っていました。お茶屋さんの数は過去数十年で減少の一途を辿っています。おいしいお茶を紹介する人、つまり我々のような事業者が、良いお茶の産地や製品、おいしい飲み方などを、広く一般の方々に発信する努力を怠っていた結果だと思いました」。
とは言え、良いお茶を知らない人、お茶の本当のおいしさを知らない人に、いくら「おいしいですよ」と伝えたところで、あまり効果があるとは思えない。そう考えた大淵氏が、お茶のおいしさを知ってもらうきっかけとして思い至ったのが、抹茶を使ったスイーツだった。
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