登壇者
- トヨタ自動車 Lexus International レクサス ブランドマネジメント部部長 高田 敦史 氏
- グライダーアソシエイツ COO 荒川 徹 氏
モデレーター
- 月刊『宣伝会議』編集長 谷口 優
今回のセッションは月刊『宣伝会議』で連載中の「スマホブランディング THE 仕事人」のスピンオフ企画として実現したもの。消費者のスマホ接触時間が拡大傾向にあるなか、多くの企業が新たな消費者との接点、そしてブランディングの場として、期待を寄せている。本セッションはレクサス ブランドマネジメント部長の高田敦史氏と、キュレーションメディアAntennaを運営するグライダーアソシエイツCOOの荒川徹氏のディスカッションを通じ、ブランディングにおけるスマホの活用可能性を探ることを目的に企画された。
発売当初から高級車ブランドとして、常にその世界観を大切にしたコミュニケーションを展開してきたレクサスだが、グローバルでの年間販売台数も50万を超え、ブランドとして新たなステージを迎えていた。そこで、レクサスでは2012年から「AMAZING IN MOTION(驚きや感動を提供するブランド)」をテーマに、新たなブランディングに取り組んできた。
このブランディング活動を率いるのが高田氏だ。カフェレストラン「Intersect by Lexus」の展開や、日本の匠によるオリジナル商品の販売、ミシュランの三ツ星シェフによる食のイベント開催など、スペック訴求が中心の自動車の世界において、商品そのものではなく、その世界観を伝えるコミュニケーションにも力を入れてきた。
新しい時代の富裕層をターゲットにするレクサスは、デジタルの施策にも注力。もともと自動車の場合、自社サイトはバーチャルショールームとしての機能があり、重視をしていたが、近年はスマホからのアクセスが急速に増えており、スマホの活用が課題になっていた。 高田氏は 「スマホは移動中のちょっとした隙間時間など多種多様な使われ方をする。以前はPCサイトの要約版としてのスマホサイトでよかったが、これからはスマホならではのコンテンツを開発してきたい。特にエンタテインメント性を付加したコミュニケーションが必要ではないかと考えている」と話した。
ターゲットが絞られるレクサスのマーケティング活動は、below the lineの取り組みが圧倒的に多い。例えば、プレミアムな野外レストラン「DINING OUT」の取り組み。決して認知率は高くないが、参加した人のレクサスに対するブランド変容はマス広告よりも圧倒的に高い。「リーチと到達の深さの掛け算で考えると、こうした取り組みは有効。ただ、参加者が限られるので、当日の様子を撮影して動画コンテンツとして活用するなどの施策が必要。しかし、そのコンテンツを自社サイトに置いておくだけでは、コアファンの方にしかリーチしない。SNSやキュレーションメディアなどデジタルの様々な場所に置くことで、自動車自体に関心のない人とも接点を作れるのが理想。そして『車って最近変わっているんだな』と感じてもらうことができれば」と高田氏は語る。特に自動車の場合、既存顧客とのコミュニケーションは主に販売店が担っており、高田氏の部門は新規顧客との接点作りに、そのミッションがある。自動車に限らず、ライフスタイル全般について発信されるレクサスの取り組みに共感してくれる人の中に、新しく顧客となってくれる人がいるのではないかと考えているという。
この話を受け、荒川氏は「Antennaに寄せられる課題としても、サービスや商品名は知っているけれど、中身の理解が追い付かず、興味関心の喚起ができないという声は多い。自社サイトを訪れるユーザーは顕在顧客なので、潜在的な顧客層に自然にコンテンツに触れてもらい、商品への理解を促す施策を実施したいとの考えで、Antennaを活用してくださっている。PCに比べ、スマホは潜在層との接点として期待できる点、そして継続的なコミュニケーションが行えることが魅力では」と話した。
高田氏も「ニーズが顕在化していない層との接点づくりは、あらゆる自動車ブランドにとって大きな課題であり、そこでスマホのキュレーションメディアに期待を寄せている」と話した。
しかしユーザーが能動的に情報にアクセスするデジタル空間では、企業目線の発信ではなく、ユーザーにとって魅力的なコンテンツになっている必要がある。レクサスブランドを理解してもらえる要素を盛り込みながら、ユーザーにとっての興味を引くコンテンツを作るのは難しく、そのバランス感についてはトライを繰り返しながら考えているところだという。
また二人の議論はコンテンツの中でも、特に近年注目される動画の活用についても及んだ。「動画には注目をしている。しかしスマホでは、多様な嗜好を持つ消費者との接点を作れるよう、動画コンテンツも種類が必要。従来のテレビCMのようなクオリティを求めるのではなく、スマホに適した動画制作の体制を考えていきたい」と高田氏。
荒川氏は「Antennaに情報を流す場合、専用のコンテンツを用意しなければならないと思っている企業が多いが、コンテンツは普段の企業活動の中に眠っている。個々の活動を組み合わせて見せることで、違う文脈が生まれ、まったく新しいコンテンツとして利用できることもある」と説明した。
対談を終え、多くのメディアを活用しており、Antennaも活用している高田氏は「Antennaは自社サイトとは対極にあるメディア。Antennaでは世の中のニュースと並列でレクサスが取り上げられている。どの記事がどれくらい見られたかもわかる。潜在的な顧客にニュートラルな形で訴求できるメディア」と感想を述べた。
一方の荒川氏は「デジタルは新しくて面白いことに挑戦ができ、若い人たちの興味を惹くコンテンツを作ることができる。そのことをもっと知ってもらいたい」と対談を締めくくった。
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