なぜ、カンヌから「広告」が消えたのか?~広告の役割は「伝える」から「つなげる」へ
京井良彦(電通)
今年で58回目を迎えるカンヌは、正式名称を「CANNES LIONS INTERNATIONAL FESTIVAL OF CREATIVITY=カンヌ国際クリエイティビティフェスティバル」に変更しました。これまで長年使われてきた「ADVERTISING=広告」という言葉が消えたのです。
その理由は、カンヌで数多く開催されているセミナーでの議論を聞いていると分かるように思います。セミナーで議論されるテーマは、「いかに企業からのメッセージを消費者に伝えるか」ではなく、「いかに企業と生活者をつなげるか」という内容にシフトし、企業と人、さらには人と人とをつなげるアイデアを模索することが中心になっているのです。つまり、広告の役割は「伝える」から「つなげる」に変わったということです。
これまでも、「広告は従来の枠を超えた」という言い方がされてきましたが、今やもう「枠を超えた分」の方が大きくなっているのです。要は、広告はこれまで以上に企業活動の本質に関わることになっている。これがカンヌから「ADVERTISING」が消えた理由ではないでしょうか。
これに伴い、goviralやNakedなどのセミナーでは「experience=体験」という言葉が多用されていました。これからのコミュニケーションは、ソーシャルメディアによって生活者とのつながりを構築し、その上でいかに彼らを巻き込み、体験させるかが課題になっています。
これは、数年前によく言われた「ブランド・エクスペリエンス」とは少し違う意味をもっています。単にブランドの世界観を体験してもらうということではなく、企業活動本業のバリューチェーンに巻き込んで、一緒にブランドを構築していくということを指しているのです。もはや「experience」というよりは「involving」といったところでしょう。
例えば、ダイレクト部門でゴールドを受賞した「カムバック・フェロラマ」というキャンペーンがあります。フェロラマは、生産中止になっているミニチュア模型の汽車です。メーカーは「ファンがレールをつなぎ合って汽車を走らせていき、20キロ先の目的地にゴールさせることができれば再生産する」と約束。熱烈なフェロラマファンが一般人を巻き込みながら見事課題をクリアし再生産が決定したというものです。つまり、再生産という経営の重要判断をファンの熱意に委ねたというものだったのです。
他にも、LEGOの「CUUSOO(空想)」というクラウドソーシング、つまり、ファンから商品開発のアイデアを募るものや、コロンビアでシボレーが設立したタクシーの運転手に働く意義を伝えるための大学など、企業活動の根幹に人々を巻き込んでいこうとするものが多く見られます。
人と人のつながりが、また次の人とのつながりを生み出す。このような自走的に人のつながりが拡散させていくビッグ・アイデアを、いかに生み出すか。どうやら世界は、こんな方向に向かっているようです。
京井良彦(きょうい・よしひこ)
電通アカウント・スーパーバイザー/電通モダン・コミュニケーション・ラボ。富士銀行入行後、国立インドネシア大学留学を経て、投資銀行でM&Aアドバイザーとして活動。2001年より電通に勤務。営業局にて民間、官公庁、グローバルと多岐にわたるクライアントを担当。最新著書は『ロングエンゲージメント』(あさ出版)。
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