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「広めたくなる」自虐コピーで、銭湯の来客数を月250人増

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埼玉県浦和の銭湯「鹿島湯」に、大勢の人が足を運んでいる。減少傾向にあった来客数を前年比110%に押し上げた原動力は、島田寛昭さん、シモカワ ヨウヘイさん、日野原良行さんのクリエイター3人による自虐コピーだ。Jリーグ 浦和レッズの拠点にありながら、最大のライバル「鹿島(アントラーズ)」の名を持つ「鹿島湯」。そこを逆手にとった自虐コピー誕生の裏側を、宣伝会議賞の受賞経験も持つ3人に伺った。

ポスターは38枚作成し、銭湯の店頭に掲出。Webにも投稿した。

——島田さんがコピーとデザインを、シモカワさん、日野原さんがコピーを担当したとのことですが、3人はどのような関係なんですか。

島田:僕を含め3人とも宣伝会議 コピーライター養成講座の受講経験があり、そうしたことをきっかけに知り合いました。今回の仕事は、銭湯好きな日野原くん、シモカワくんから、「銭湯のポスターを一緒に作りませんか?」と誘われたことが始まり。減少傾向にある銭湯の人気を盛り上げたいという動機があったようです。まずは打ち合わせも兼ねて3人で銭湯につかりに行きました。

——鹿島湯さんからの依頼ではなく、自主提案だったんですね。

島田:3人で銭湯のポスターを構想しつつクライアントを探していた時に、知り合いのボランティアチーム「絆ジャパン」代表・坂下三浩さんより、自身が経営している銭湯があり、そこで新しい取り組みをしたいと聞きました。

——最初から自虐コピーは浮かんでいたんですか?

島田:コピーを考える中で、浦和レッズのお膝元で屋号が「鹿島湯」では苦労しているのでは…と思い店主の坂下さんに聞いたところ、「たしかに、レッズサポーターに避けられているようです」という話が出てきました。そこから、「鹿島湯だけど浦和レッズファン」という企画を考案。誤解を解きつつ、より多くの人に「鹿島湯」を知ってもらうことができると思いました。

——各コピーには、振り切ったものが多いように感じます。

シモカワ:「鹿島湯」という名前をイジる企画ではあるのですが、一歩間違えると伝統ある名に泥を塗りかねない。そこは、とても気を遣ってバランスをとりました。また、銭湯の店主が、自分が日頃思っていることやジレンマをそのままポスターに書いたようなコピーを意識しました。

日野原:「鹿島湯」のファンを増やす。その目的に向けて、ネットで拡散されることも強く意識しました。例えば、ラグビーや話題の芸人さんのギャグといった時事ネタを入れたり、【拡散希望】というフレーズを忍ばせてみたり。真面目なものもありますが、基本的には笑えるものをいろんな角度から書き、「広めたくなる広告」を目指しました。コピーは全部で38本。すべてポスター化し、「鹿島湯」店頭に貼りWebにも投稿しました。結果的に、コピーはまとめサイトやWebニュースだけではなく、東京新聞にも取り上げてもらい、「鹿島湯」のファンや来客数増加につなげることができました。

——このポスターシリーズは、1月30日に発表された「2015年度FCC賞」にも選ばれたそうですね。

シモカワ:僕は福岡の審査会に行ったのですが、現地の方に「これ見たことあるよ!」と声をかけてもらってすごく嬉しかったし、拡散力を感じました。みなさん優しくてアウェイなのにホームみたいでしたね。もちろん、受賞も嬉しかったのですが、店主の坂下さんから「お客さんが増えた」と報告を受けたことがやっぱり一番嬉しかったです。

日野原:僕もその報告を受けた時に、どんな賞を獲るよりも嬉しいなと思いました。でも、運良くFCC賞を受賞することができ、広告のプロから認められることもまた、自分の励みになるのだと実感しました。

島田:浦和レッズのファンはもとより、鹿島アントラーズのファンの方も鹿島湯さんに来てくれたとのことで、様々な人に好意を持ってもらえました。お客さんは前年より約10%増え、「コピー」の価値・存在意義を大きく感じられる仕事になりました。声をかけてくれた日野原、シモカワのご両人と鹿島湯さん、そして来てくださった方、拡散してくださった方に大感謝です!

【鹿島湯 店主 坂下三浩さんから】

銭湯は、今や「生活の一部」ではなく「娯楽」に近い存在です。なくても困らない。それでも必要としてくれる人がいるからと、先々代から守ってきましたが、三代目となった今、タイトル奪取に向けて奮闘する浦和レッズのように、「鹿島湯」も銭湯の新しい価値や意義を模索し、挑戦しなければなりません。そのためにも、今回のポスターは良いキッカケになりました。掲出後は、レッズサポーターだけでなく、鹿島サポーターの方々も来てくださっています。こんな所に銭湯が!と、60年目にして気付かれたご近所さんも。まだまだ可能性のあるこの銭湯。これからも、どんどん進化させていきます。本当にありがとうございました。そして、受賞おめでとうございます。私共も負けないように頑張ります!



島田 寛昭(しまだ ともあき)
1977年東京都生まれ。筑波大学、同大学院でグラフィックデザインを学んだ後、制作会社・印刷会社・広告会社勤務を経て2013年よりフリーランス。第52回宣伝会議賞 シルバーなど受賞。コピーライター養成講座(2009年秋基礎コース、2010年ボディコピー特訓コース、2010年専門コース石川英嗣・岡本欣也クラス、2010年専門コース中村禎クラス)、2013年アートディレクター養成講座スペシャルコース、2014年ラジオCM実践コースを受講。


シモカワ ヨウヘイ
1987年東京都生まれ。明治大学法学部出身。自動車ディーラーを経てコピーライターに。日本デザインセンター所属。第50回宣伝会議賞 協賛企業賞、第23回京都広告賞 グランプリなど受賞。コピーライター養成講座(2011年秋基礎コース、2013年春専門コース 谷山・井村・吉岡・照井クラス)を受講。アドタイにて、コピーライター養成講座卒業生が語る ある若手広告人の日常「運が悪くても死ぬだけだ」執筆。


日野原 良行(ひのはら よしゆき)
1988年東京都生まれ。制作会社・広告会社・フリーランスを経て2016年2月10日より面白法人カヤックへ。映画「ノルウェイの森」コトバの森キャンペーン特別賞、東京スマートドライバー 横断幕メッセージ最優秀賞、第48回宣伝会議賞 協賛企業賞、第50回宣伝会議賞 グランプリなど受賞。コピーライター養成講座(2009年秋基礎コース、2010年春上級コース)を受講。アドタイにて、「グランプリはこう狙え!」など執筆。