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既存事業だけでは立ち行かなくなる時代 企業理念を軸に新たな事業開発に挑む

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都内では駅前やオフィス街などの好立地にあった居酒屋ですら、閉店に追い込まれる店が出てきている。背景にあるのはコロナ禍はもちろん、働き方改革も影響している。居酒屋に求められるものが変化する中で、三光マーケティングフーズはどのように向き合っていくのか。同社の代表取締役社長である長澤成博氏に聞いた。

月刊『宣伝会議』10月1日発売の11月号では「コロナ禍で見直す企業理念―ブランドの存在意義を再定義する―」と題し特集を組みました。ここでは、本誌に掲載した記事の一部を公開します。

三光マーケティングフーズ 代表取締役社長 長澤成博氏

沼津の漁港に社員を派遣 理念を軸にした新事業の可能性

居酒屋チェーン「金の蔵」を展開する三光マーケティングフーズは9月10日、沼津我入道漁業協同組合との業務提携を発表した。沼津の漁師の人々や漁港の抱える課題と向き合いながら、「沼津の魚」の活用法、商品化、そのPRや販路の拡大を目指す。

現在、すでに三光マーケティングフーズの社員を駐在員として沼津漁港へ派遣しており、人材交流が始まっていると、三光マーケティングフーズの代表取締役社長・長澤成博氏は話す。

「我々の企業理念である『価値ある食文化の提案』を実現するため、地場で採れた海産物のPRや後継者不足などさまざまな課題を抱える産地をサポートすることで、食文化を守りたい。たとえば、漁師さんの間では知られていても、一般的には知られていない魚の調理方法や食べ方などはたくさんあり、そのような食文化を伝えていく必要があります。漁師さんたちの知恵と、我々のフットワークを組み合わせることで、今までにないものが生み出せるはずです。また、我々が生産者と消費者をつなぐ架け橋としての役割を担っていきたいと思います」(長澤氏)。

駐在員は、漁師と一緒に漁へ出たり、市場で働いたりと漁師の仕事を現場で体験している。長澤氏自身も何度も現地へ訪れ、漁師の人々と交流することで、さまざまな課題の発見があったという。

「現場で漁などを体験することで、地域が抱えるさまざまな課題を肌で感じることができました。コロナによって、居酒屋を含む飲食業界全体が過渡期を迎えていますが、この時代に『自分たちには何ができるのか』を会議室の中だけで議論していても、その答えは見えてこないということを痛感しました」(長澤氏)。

現在は漁港だけだが、農家とも話し合いを進めており、今後は農業分野への人材派遣も予定している。実際に、現場へ行って働きたいという強い要望も社内から挙がっているという。

主力事業からの転換を目指し 官公庁の食堂運営委託にも挑戦

三光マーケティングフーズが展開するブランド「東方見聞録」。ほかにも「金の蔵」「東京チカラめし」などがある。

同社はもともと、宴会需要に対応するためオフィス街や駅前などに数十名で利用できる大箱の店舗を出店する立地戦略をとってきた。しかし、働き方改革などによって、人々の生活が変わり、会社が主催するような大規模な宴会や飲み会の数は減少。さらにコロナ禍によって、飲食店の在り方が問われる時代になった。同社も最盛期には約280店舗あった店舗も、今や60店舗ほどになっているという。

「我々はコロナによって変化が求められるようになったというより、もともと、ここ10年の働き方改革の流れによって、従来のビジネスモデルからの転換が求められていました。近年では、社員全員がまるで営業のように、企業理念を実現するため、自分たちの“得意技”がどう活用できるかを考え、さまざまなことにチャレンジしています」(長澤氏)。

今年度から実施している官公庁の食堂運営受託事業は、そのチャレンジのひとつだと長澤氏は言う。飲食店運営という既存事業で培った得意技を活かした取り組みだ。利用者からも「おいしい」「他の人を連れてきたい」など反響があり、手応えを感じているという。

「緊急事態宣言の際もそうでしたが、我々飲食業はお客さまと接する機会がなくなると、本当に必要なのかと自信を失ってしまいます。ですので、このように実際に『おいしい』と喜んでもらえることは、自信やモチベーションアップにもつながりますし、このコロナ禍で社員にとって大きな活力になりました」(長澤氏)。

郊外の店舗は売上好調 居酒屋の楽しみ方に新たな需要も

その他にも、水族館の飲食店運営であったり、ホテルでの食事提供であったり、三光マーケティングフーズが解決できる課題たちを探し、実際にチャレンジをしている。そのような会社全体の動きについて、今は企業理念を軸に得意技を活かせそうな場面では「とりあえずやってみる期間」だと長澤氏は言う。

「社会環境が大きく変化している状況では、既存事業だけでは、立ち行かなくなるのは目に見えています。まずは自分たちの進む方向性を見極めるため、まずは何でも試してみることが重要です。しかし、『価値ある食文化の提案』という理念と自分たちの得意領域であることは必ず社員全員が念頭に置き、チャレンジすべきことは見極めています。漁港の課題もそうですが、私自身、日々新しいことの連続なので、さまざまな発見があり刺激を受けています」(長澤氏)。

ただ既存事業においても、新しい需要や発見も生まれていると長澤氏は言う。実は今までは売上でいうと2番手、3番手だった、商店街にある大衆酒場などの郊外店が好調なのだ。

「もはや居酒屋は仕事帰り、夜に行くものという、今までの常識は通用しなくなっています。現在、川崎の商店街にある店舗などは、昼や夕方の早い時間から店内がお客さまで賑わっています。居酒屋の楽しみ方は大きく変わっており、この流れは元には戻らないでしょう。今後はそのようなニーズに合わせた店舗展開、立地戦略を検討しています」(長澤氏)。

月刊『宣伝会議』11月号(10月1日発売)

月刊『宣伝会議』11月号では巻頭特集企画として、「コロナ禍で見直す企業理念―ブランドの存在意義を再定義する―」と題し、コロナ禍で大きく社会が変動した時代において、各企業は理念やブランドの存在意義をどのように見つめなおしたのか、実例をもとに考察しています。

巻頭特集
コロナ禍で見直す企業理念
―ブランドの存在意義を再定義する―

▽注目の記事をご紹介!
〇いま必要なのは、パーパス(存在意義)からのブランド・モード・シフト
関西学院大学専門職大学院 森一彦
〇既存事業だけでは立ち行かなくなる時代 企業理念を軸に新たな事業開発に挑む
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