
オラクルひと・しくみ研究所
小阪裕司氏
本記事は販促会議2022年11月号からの転載記事です。
「宣伝会議デジタルマガジン」にご登録いただくと全文がご覧いただけます。
長くデフレが続いた日本では、値上げに慣れていない人が多い。というよりもむしろ「値上げは悪だ」と思っている人が多いようです。そして、そんな人にぜひ、ご紹介したい研究結果があります。
ノーベル賞教授が語る「値上げ」とは
プロスペクト理論で知られるノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマン教授が行った、価格に関する研究。ある地域のレタスが品薄になり、卸値が上昇。そのため、レタスを1個当たり30セント高い卸値で仕入れることになり、売り値を30セント高くした。すると、約8割の人がそれを受け入れてくれた、というものです。
この研究では、理由があり、その理由が妥当であるならば、お客さまは値上げを受け入れてくれることが示唆されています。また、同様の研究では、工場での生産コストが下がった際、価格をその半分だけ下げたところ、やはり約8割の人がそれを受け入れてくれた。つまり、生産コストが減った分価格を下げなくても納得してくれる人が多かった、という結果も得られています。さらに、コストが下がったのに、価格をまったく下げないという選択をした場合でも、約半数の人はそれを受け入れました(図1)。
これらのメカニズムは、「二重権利の原理」と呼ばれています。この研究知見から得られることはいくつもありますが、一つ確実に言えることは、「理由が明確なら人は値上げを受け入れる」ということです。これは20年も前の研究ですが、消費者心理は大きくは変わっていないでしょう。
今回の価格上昇局面において値上げを余儀なくされた会社や店から、「その理由を説明すべきかどうか」という相談をしばしば受けますが、この研究結果を踏まえて答えれば、「説明すべき」ということになります。
「価格」は主役ではない 買う価値を伝える
ただ、私はそこで「原価高騰のためやむを得ず⋯⋯」といった言い訳をするのではなく、一歩進んで「この商品を買う価値を伝える」ことに力点を置いたほうがいいと考えます。そこでご紹介したいのが、「二つのハードル理論」です。
