前回(第6回)では、Webtoonやゲーム・メタバースに象徴されるように、IP(知的財産)のあり方が単なる「物語の消費」から、ユーザーが能動的に参加・没入する「世界観(ワールド)の消費」へと変化していることを論じた。今回はその変化を踏まえ、企業ブランドがIPとどのように向き合い、コラボレーション(タイアップ)すべきか、その進化論について考えていく。
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本題に入る前に、まずは一般的な企業や製品における「ブランド」の定義を、基本に立ち返って確認しておきたい。
ブランド(Brand)の語源が「焼き印(Burned mark)」にあることは広く知られている通りだ。元来、それは牧場の牛など、他者の所有物と区別するための「識別記号」に過ぎなかった。しかし、近代以降、その役割は「品質保証」や「出所表示」へと拡大していく。現代において、ブランドとは「顧客に対する約束(Promise)」であり、企業と顧客の間で共有される「信頼の証」であると定義される。
このブランドを単なる記号ではなく「資産」として捉え直したのが、『ブランド論』や『ストーリーで伝えるブランド』などの著書で知られるデービッド・アーカーだ。彼が提唱した「ブランド・エクイティ」という概念は、ブランドが認知・連想・知覚品質・ロイヤルティから構成される「無形資産(Intangible Asset)」であることを示した。
競合製品と機能やスペックが同等であっても、特定の製品が選ばれることがある。その「差別化」の源泉こそがブランド・エクイティだ。つまり、一般的な企業・製品ブランドとは、「機能的価値(役に立つ)」と「情緒的価値(信頼できる)」を顧客に約束し、それを誠実に履行し続けることによって蓄積される資産であるといえるだろう。
「コンテンツIP」というブランドがもたらす価値とは
一方で、アニメやゲームなどの「コンテンツIP」も広義のブランドには違いないが、その性質は企業ブランドとは異質だ。前回触れた「世界観の消費」や、近年の新たなマーケティング潮流を踏まえると、コンテンツIPは次のように再定義できるだろう。
まず、コンテンツIPとは単なる識別記号ではなく、キャラクターや物語を内包した「世界観(World)」そのものであるという点だ。メディア研究者のマーク・スタインバーグが論じたように、現代のファンは表層的な物語を消費するだけではない。その背後にある世界観へと参加し、没入することに重きを置いている。
また、スティーブン・L・バーゴとロバート・F・ラッシュが提唱したマーケティング概念「S-Dロジック(サービス・ドミナント・ロジック)」も重要な視点を与えてくれる。彼らは著書『サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用』の中で、価値とは企業が「モノ」を通じて一方的に提供するものではなく、顧客が使用する文脈の中で共創される「文脈価値(value-in-context)」であると説いた。
これをコンテンツIPに当てはめると、推し活に象徴されるように、コンテンツIPとはファンにとって人生に意味を与える「意味的価値(Meaning)」であり、サードプレイスのような精神的な「居場所」としての機能を果たしているといえる。
つまり、コンテンツIPというブランドは、「没入可能な世界観」という場を提供し、そこにファンが参加することで「熱量」や「生きがい(意味)」が共創される資産なのである。