広報やPRの仕事は、長らく「広告ではないコミュニケーション」として整理されてきました。広告は費用を払ってメッセージを届けるもの、PRは第三者を介して社会との信頼関係を築くもの。その違いは、広報・PR業界では半ば常識として語られてきました。
しかしデジタル化が進み、人々の情報接触行動が大きく変化した現在、その境界線は急速に曖昧になりつつあります。生活者は広告、SNS、ニュース記事、レビュー、比較サイト、検索結果などを横断しながら意思決定を行っており、「これは広告」「これはPR」と切り分けて情報を受け取っているわけではありません。
今回紹介するのは、ウクライナにおける加熱式たばこIQOSのコミュニケーション事例です。一見するとデジタル広告の成功事例にも見えますが、本質的には、「人がどのように情報を認知し、信頼し、行動するか」を設計したPR的アプローチとして捉えることができます。
IQOSの製品イメージ(Hoshva PR社提供)
「広告できない」という前提から始まった
この事例を特徴づけていたのは、極めて強い広告規制でした。タバコカテゴリーであるIQOSは、テレビ、ラジオ、屋外広告などの主要マスメディアを自由に使うことができず、さらにGoogleやMeta系プラットフォーム上でも厳しい制限を受けていました。
つまり、「大量出稿で認知を取る」という従来型広告モデルが成立しにくい環境だったのです。
一方で、ブランド側には別の課題もありました。都市部では認知が進んでいたものの、地方部ではIQOSというカテゴリー自体の理解がほとんど進んでいませんでした。そこで必要だったのは、単なる広告露出ではなく、「生活者がどのように情報に触れ、理解し、関心を持っていくか」を段階的に設計することでした。
「誰に届けるか」より、「どの状態にあるか」
この施策で興味深いのは、ターゲットを単純な属性ではなく、認知状態によって分けていた点です。
まだIQOSを知らない人には、「これは何か」を説明する。一方で、比較検討段階にいる人には、レビューや口コミ、製品比較、利用シーンといった別の情報を届ける。そして既存ユーザーには、継続利用を後押しする情報を提示する。
つまり、「同じメッセージを広く届ける」のではなく、「人の認知や心理状態に応じて、情報との出会い方を変える」設計が行われていました。
これは従来型広告というより、むしろ現代的なPRの考え方に近いものです。PRは本来、「どう露出するか」だけではなく、「人がどのように意味づけを行うか」を扱う仕事でもあります。この事例では、その発想がデジタル空間全体に拡張されていました。


