時代が進むほど、新しく注目を集める場所が生まれる一方で、かつてにぎわった場所が勢いを失うこともある。では、価値観や暮らし方が変わった未来で、忘れられかけた場所をもう一度人々に選ばれる場所にするには、どんな仕事が必要になるのだろうか。第6話では、場所の魅力を見つめ直し、新たな意味を与える仕事の未来を描く。
時代が進むと、新たに栄える地域や街も出てくれば、勢いを失う場所も出てきます。後者の場合、そのまま廃れてしまうこともある一方で、立ち上がった人々の奮闘で再び盛り上がることもあります。
未来においては、どんな場所が勢いを失い、どう盛り上げようとしていく可能性があるでしょうか。
たとえば、日本の周りの海底にもたくさん眠っている、「燃える氷」として知られるメタンハイドレート。未来では、その採掘のために海に浮かんだ海上都市が誕生するかもしれません。が、一時期はにぎわったものの、代替資源の登場で勢いを失ってしまったとしたら。再び海上都市を盛り上げるため、芸術祭を開催するのはひとつの選択肢でしょうか。その名も、炎と氷の芸術祭。燃える氷のように相反するものの融合がテーマの芸術祭です。
あるいは、VRの街で過ごすことが一般的になった未来。アバターが身につけるファッションなどのアイテムを売る店が集まった商店街が、VRの中にできるかもしれません。が、近くに巨大なショッピングモールができて客足が遠のいてしまったら。さらには、どの店も商品をアップデートする余裕がなくなり、センスが時代遅れで画素数も粗いアイテムばかりが並ぶようになって、いっそう商店街がさびれたら。たとえば、その古いアイテムをあえて全面に押し出してレトロ感で盛り上げようとする方向はひとつあるでしょうか。一周回って「かわいい!」となることを願って。
もしくは、技術が進んで人の意識をそのままクラウド上にアップロードできるようになったなら、肉体を捨ててクラウド上の“あの世”で生きる人が現れる可能性もあります。その結果、“この世”に住む人が少なくなって、“この世”がさびれてしまったら。たとえば、“この世”を「生身の感覚を懐かしむ場所」として打ち出す方向はありそうでしょうか。意識だけになった“あの世”の人たちが、いつでも気軽にロボットなどに憑依して遊びに来られる場所を目指すという具合です。
そんな中、今回ぼくが想像をふくらませてみたのが、人類が火星に進出した結果、かつて栄えた月の都市がさびれてしまった未来の光景です。
もし、月の人たちと一緒に再び月を盛り上げていく仕事があったら?
ということで、ここで一作。いつの日か、こんな未来が訪れる、かもしれません。
ミライの新職種「月の創生人」
いつぶりかに月を訪れてみて、その変わりように私は「なるほど……」とつぶやいた。人類が宇宙に進出して以来、月は重要な拠点となって定住者や観光客で大いに栄えたものだった。が、今の月はどこを見てもすっかり活気が失われてしまっていた。
転機となったのが、人類の火星への進出だった。今や人々は火星ばかりに行きたがり、月を訪れる人は激減した。
もうひとつ、若い世代の月に対するイメージも逆風となった。というのも、重力が地球の6分の1ほどの月では身体への負担が軽くラクに動けるため、月はかつてシニア層に絞ったメッセージを積極的に発信していた時期があった。が、その影響で昨今は「月はシニア向け」というイメージが先行し、若い世代からなんとなく敬遠されるようになっていた。
結果、月は満月が欠けていくように勢いを失い、今に至るというわけだ。
そんな折、火星で働いていた私のもとに依頼が届いた。
──月を再び盛り上げるために力を貸していただけませんか。
依頼主の月の人たちの表情は暗く、視察をへてハードな仕事になりそうな予感はいっそう増したが、私は覚悟を決めて“月の創生人”を請け負った。
最初に月の人たちとおこなったのが、月に遊びに来てもらうためのメッセージの核を決めることだった。検討を進めるなかで出てきたのが、低重力がもたらしてくれるある感覚に焦点を当ててはという声だった。地球や火星から月に来ると、まるで全身についたおもりが外されたような感覚になり、心もなんだか軽くなる……。
さらに議論を重ねていって、私たちはメッセージの核をこう定めた。
──月は自分を解放し、心身を充電する場所。
そうして、具体的な施策の実施に乗りだした。そのひとつが宿泊施設の刷新だった。月には住居が集合したドームがたくさんあったが、今では空き家の集まりになったドームも少なくなかった。私たちはそういったドームの住居をリノベーションして、一棟貸しの宿の集まるものへと変えていった。ドームごとにテーマを設け、ひとつに選んだのが「かぐや姫」。竹林に囲まれた御殿のような宿からは空に浮かぶ地球が見え、ウサギ型の給仕ロボットが行き届いたサービスを提供してくれるという趣向だ。
月面ツアーも再考した。月の南極のクレーターの中にある、1年中まったく光が届かない“永久影”の暗闇でおこなう、心を整える瞑想ツアー。人類が初めて月面に着陸した場所で、アームストロング船長の名言「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩だ」などを味わい、気力を充実させるツアー。
取り組みはまだまだはじまったばかりで、これからどうなっていくかはわからない。でも、一緒に動いている月の人たちの表情はここのところすっかり明るいものへと変わっていて、いい予兆を感じている。
私たちは一丸となって動きつづける。強い想いを胸に抱いて。
月は欠けても、また必ず満ちていくのだ。
(了)


