一過性の販促で終わらせない――1億超の会員基盤と小売流通のPOSデータの連携で実現した、花王グループカスタマーマーケティングとドコモの共創戦略

購買行動においてキャッシュレス決済を利用することが日常化した今、消費財メーカーにとってデジタル決済をフックにした販促は、 顧客と店頭を結ぶ最大のタッチポイントといえる。一方で、ポイント還元施策または還元率などを競い合うことによるプロモーションの同質化と利益率確保の難しさに、多くの企業が直面している。

こうした中、花王グループカスタマーマーケティング(以下、KCMK)、マツキヨココカラ&カンパニー(以下、マツキヨココカラ)、NTTドコモ(以下、ドコモ)の3社が手を組んだ。一過性のイベントで終わらせず、dポイント会員基盤を活用したデータ戦略を展開。年間プロモーションを通じて、「利益率の確保」と、小売が求める「店頭の差別化(独自性)」を同時に実現した。

3社が一体となって施策に取り組んだ背景から、小売・メーカー双方のメリットを最大化させ、「新規顧客の獲得と休眠顧客の掘り起こし」と「既存顧客のロイヤル化」を両立させた戦略、データ起点の新たな顧客アプローチがもたらす可能性まで、KCMKの黒河内稔氏、秋葉浩文氏、ドコモの中澤由美子氏、渡邉聡氏に聞いた。

マツキヨココカラの「独自性」に寄り添う、小売業横断施策

消費財メーカーのマーケティングにおいて、生活者が最終的な購買決定を下す「店頭」と、その「購買データ」を併せ持つ小売企業との連携は、販促を成功させるための重要な鍵となる。ドラッグストアチェーン「マツモトキヨシ」「ココカラファイン」を運営し、KCMKの重要なパートナーの一つであるマツキヨココカラは、トレンドや美容感度の高い若年層からビジネスパーソンまで幅広い顧客を抱える。こうした背景のもと、同社は先行販売品や専売品の展開を軸とした、他社との差別化を図る「独自性のある店頭提案」を重視してきた。

黒河内氏は「これまでもマツキヨココカラが追求されている独自性と差別化に重点を置き、施策に取り組んできました」と振り返る。

写真 KCMK 黒河内稔 氏

花王グループカスタマーマーケティング 営業部門 部長 黒河内稔 氏

そんなKCMKが同社とのパートナーシップをより強固にするために着目したのが、以前より注力しているドコモの「dポイント」施策だった。dポイントと「マツキヨココカラポイント」の同時提示によるポイントのダブル付与は顧客の来店動機の一つとなっており、メーカータイアップも定期的に行っている。

さらに、dポイントからでしか誘引できない顧客へのアプローチができる点も、dポイントを採用するに至った要因の一つだった。

そこでマツキヨココカラ統合1周年のタイミングを機に、ドコモを加えた3社による施策をスタート。この施策をきっかけに、KCMKは全流通横断で展開していた他社キャッシュレス決済施策から、マツキヨココカラにおいてはdポイント施策へとシフトした。

この決断について、秋葉氏は「社内調整のハードルはありましたが、マツキヨココカラと向き合う上で、dポイント施策は外せませんでした。また、両社で『新規顧客の獲得および休眠顧客の掘り起こし』という共通課題を抱えていたことも、今回の連携を推進する決め手となりました」と話す。

写真 KCMK 秋葉浩文 氏

花王グループカスタマーマーケティング 営業部門 マネジャー 秋葉浩文 氏

POSデータで顧客インサイトを可視化

3社による取り組みは2023年に初めて実施され、2024年には計8回のキャンペーンを展開。そのレポーティングを基に検証を重ね、2025年には年間16施策へとスケールアップさせた。

徐々に施策を拡大させていった背景には、確実な送客効果への実感があった。また「独自性」を重視するマツキヨココカラの差別化にフィットしたことも要因だという。

2025年の施策内容は、KCMKの対象商品を一定額購入すると20%分を還元する、年3回の「マストバイキャンペーン」と、特定カテゴリーや個別ブランドに絞った「先着クーポン施策」の2種類。今回の施策を振り返り、渡邉氏は「施策を成功に導くため、戦略と運用の両面において3つの点にこだわった」と話す。

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まとめ買いで20%ポイント還元施策をメインに、1年にわたってキャンペーンを展開した

1つ目が、「費用対効果を最大化」させることだ。還元キャンペーンにおける最大の課題は、いかにコストを効率化しつつ、従来手が届かなかった層を送客させるかにある。本施策では「20%還元」と還元率を抑えながら、過去データに基づいて「より売上に直結する顧客層」へ、アプリやレシートでクーポンを送付し効率的にアプローチした。

「特に優先順位を高く設定したのは、来店頻度が高いロイヤル層や新規顧客です。さらに過去データから『前回施策に参加したが、最近来店していない層』や『最近買い上げ点数が下がっている層』も抽出し、対象ユーザーへは追加のインセンティブを付与しました。また、年末や新商品発売時期といった需要期に合わせて計画的に施策を打ったことも有効だったと感じます」(渡邉氏)

この戦略を支えたのが、マツキヨココカラが保有するPOS(購買時点)データと、ドコモが擁する1億超の会員基盤を介して得られる精緻な購買トラッキングデータだ。中澤氏はdポイントデータについて、次のように述べる。

「最大の強みは、施策ごとのリフト効果や課題がすべて明確な数値として可視化されることです。何度も施策を重ねる中で、ユーザーの購買行動を蓄積し、過去のキャンペーンの参加状況や、ブランド別購買状況などのデータから見えた課題などを基に次の一手を考えました」

写真 NTTドコモ 中澤由美子 氏

NTTドコモ カスタマーサクセス部 第一コンサルティンググループ 担当課長 中澤由美子 氏

「信頼」と「チャレンジ精神」が高速PDCAを後押し

2つ目が、KCMK、ドコモの2社での「直商流」体制による、スピード感を持った意思決定だ。2社は定期的なすり合わせを行い、計画・実行・振り返りを実施し、「共有できるパートナー」としてともに信頼関係を築き上げてきた。この密な関係性と、データでの納得感のある伴走により信頼を積み上げ、早期に年間施策のマスター合意の形成も可能となった。

「すべての施策が良い結果になるとは限りません。しかし直接話し合うからこそ、『今回はここが悪かったから、次はこういうアプローチにしよう』と包み隠さず議論できました。両社に『まずはやってみよう』というチャレンジ精神が共通していたことも、施策を推進する強力な後押しになったと思います」(秋葉氏)

渡邉氏も、このダイレクトな連携に手応えを感じている。

「『マツモトキヨシ』『ココカラファイン』の店頭で、いかに花王商品の存在感を最大化し、新規・既存のお客様を増やしていけるか。その一助となるべく、定例会では毎回新たな分析視点を取り入れたデータをご提案することを心がけていました。それに対して、打ち合わせの中で様々な意見を出してくださる。この密なやりとりがあったからこそ、施策がスピーディーにアップデートされたと感じます」(渡邉氏)

写真 NTTドコモ 渡邉聡 氏

NTTドコモ カスタマーサクセス部 第一コンサルティンググループ 主査 渡邉聡 氏

3つ目が、販促を「一過性のイベント」で終わらせないための徹底した仕組み化である。分析パートをフォーマット化、またマーケティングプロセスの自動化を進め、効果検証から次回立案へのPDCAを回す体制を構築した。これにより、高頻度な実施を支える、再現性の高いマーケティングオペレーションを実現。単発のキャンペーンで終わらせず、施策を重ねてデータの蓄積と改善を繰り返し続けることで、より精緻な分析による深い顧客理解につながり、ロイヤル化という「顧客育成のサイクル」を確立させた。

dポイントの活用はブランドロイヤリティの担保という面からも寄与した。値引きによる価格訴求は新規顧客の獲得において即効性が期待できる手法だが、一方で「ブランド価値の毀損」につながるリスクがある。dポイント活用は価格による訴求に依存せず、生活者に購買機会を創出することができる強力なフックとなった。

この一連の取り組みは、2025年にドコモのSingle ID Marketingを評価する社内表彰プログラムにおいて、200件超の案件の中から総合グランプリを受賞した。外部有識者を交えた審査を経て、 新規・休眠顧客の獲得を実現した「収益性 × データ活用 × 横展開性」を兼ね備える事例として高く評価された。

販促から広告領域へ 「再現性の高い仕組み」を拡張

1年間の継続的な実施により、新規顧客数および売上はともに増加。特に、マストバイキャンペーンの「条件達成者」数は、回を重ねるごとに増え、2025年6月の施策では数十万人を突破。さらに、dポイントを提示してKCMK商品を購入したユニークユーザー(UU)数は約100万UUにのぼる。他メーカーや他ブランドにも応用可能な、利益と顧客育成を両立させる取り組みとなった。

黒河内氏は「他社の決済サービスを用いた施策と比較しても、多くの生活者を巻き込むプロモーションとなりました。広告メディアへの投資とは異なるアプローチで大きな売上の波を創り出せる、非常に強力な武器になると感じています」と手応えを感じている。

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データを重ね合わせ、広範囲かつ精度の高い分析が可能に。Single ID Marketingの実施を実現

3社は次のステージに向けた新たな議論を開始している。「dポイントのデータを掛け合わせることで、マツキヨココカラと当社だけでは捉えきれなかった、潜在客へのアプローチも可能になると考えています。特に若年層へのアプローチにおいて、新たな顧客接点を創出するための重要な鍵になると考えています」と秋葉氏は期待を寄せる。

KCMKではさらに、販促領域にとどまらず、特定のブランドの広告領域においてdポイントのデータを活用した施策にも取り組み始めている。1億超のID基盤を起点に、市場調査や顧客分析、広告配信、効果検証までをカバーするドコモの「Single ID Marketing」によって、店頭施策だけでなく、商品開発やブランド戦略にも活用範囲は広がりそうだ。

最後に秋葉氏は今後のビジョンについて次のように展望を述べた。

「1つのIDを基点に行動データや決済データを紐づけることで、見えてくることはもっとあるはず。不確実性の高い情勢下において、最適なアプローチをギリギリまで模索することもあります。それでも、ドコモとはこれまでに築き上げた強固な土台があるからこそ、状況の変化に合わせてスピーディーかつ臨機応変に対応していただけています。今後は『マツキヨココカラといえばdポイント』であり、お客様にとっても『dポイントを使うならマツキヨココカラ』となるような、強力なブランド体験を一緒につくり上げていきたいと考えています」

KCMK × マツキヨココカラ × ドコモ 協業のポイント

・1億超のドコモの会員基盤と小売のPOSデータを掛け合わせ、施策ごとのリフト効果や課題を明確な数値として可視化。需要期に合わせた計画的な施策展開により、過度な還元に頼らない利益率の確保を実現。

 

・新規顧客の流入と、既存顧客の買い上げ拡大を両立させるプロモーションに。マストバイキャンペーンの条件達成者数は数十万人を突破するなど、ポイント還元をフックに生活者を巻き込みながら顧客をロイヤル化していく好循環を創出。

 

・データ分析プロセスのフォーマット化やマーケティングプロセスの自動化により、振り返りを即座に次回施策へ活かせる土台を整備。3社協業でありながらスピーディーにPDCAを回し続ける、再現性と実用性の高いマーケティングオペレーションを構築した。

 

・従来の単発型プロモーションから脱却し、シングルIDに紐づく継続的な顧客接点を基盤に、汎用性と横展開の可能性を備えた次世代の販促コミュニケーションモデルを確立。既存顧客のロイヤル化に加え、従来の店頭販促では届きにくかった「未来の潜在顧客(特に若年層)」へのアプローチも可能にした。

写真 プロジェクトメンバー

KCMK、NTTドコモ両社のプロジェクトメンバー

お問い合わせ

株式会社NTTドコモ

Webサイト:https://ssw.web.docomo.ne.jp/marketing/
メール:ad-sales-ml@nttdocomo.com

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