「情報なし、方針なし」でも広報は矢面に立つ 電通総研が示すサイバー危機対応

サイバー攻撃は、システム部門だけが対応する技術課題ではなくなっている。ランサム攻撃やサプライチェーンを狙った攻撃により、ある日突然、業務が止まり、取引先や顧客への説明を迫られる。企業に問われるのは、システムを復旧する力だけではない。社外に対して何を、どのタイミングで、どの言葉で伝えるかという危機管理広報の力だ。
 
6月25日に都内で開かれた「危機管理カンファレンス」(宣伝会議主催)に登壇した電通総研の赤澤卓真氏は、サイバー危機管理支援サービス「CyberCrisis360(CC360)」を紹介した。CC360は、電通総研が電通PRコンサルティングと連携して提供するサービスで、広報・経営・情報システム部門の連携強化を支援する。サイバー危機は「システムの危機」ではなく「ブランドの危機」であり、平時の備えこそがブランドを守る盾になると述べた。

攻撃されるのは「もしも」ではなく「いつか」

赤澤氏は、サイバー攻撃について「もしも」ではなく「いつか」の話として捉える必要があると指摘した。情報セキュリティ10大脅威2026(組織向け)として、1位にランサム攻撃による被害、2位にサプライチェーンや委託先を狙った攻撃、3位にAIの利用をめぐるサイバーリスクと紹介した。被害は自社のシステム停止にとどまらず、委託先、取引先、顧客、グループ会社へ波及し得る。

情報セキュリティ10大脅威2026

情報セキュリティ10大脅威2026

赤澤氏は企業からの相談について、以前は「自社が攻撃されるのか」という不安が中心だったが、現在は「どこまで備えればよいか」「何を優先すべきか」という、より具体的な相談が増えているという。サイバー攻撃を経営リスクとして捉える企業が増えている表れだ。

近年はAIの進化で、攻撃の高度化や高速化が懸念される。さらにSNSでは、事実確認が終わる前から「情報漏洩ではないか」「システムが止まっている」といった憶測が広がる。技術対応と同時に、社会の不安や誤解に対しての向き合い方が問われる局面が増えている。

経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン(第3版)」でも、平時・緊急時を問わず社外関係者との積極的なコミュニケーションが必要だとされている。赤澤氏は「システムを直すだけでは不十分。社会に対してどう説明するか、つまり広報に求められる役割が広がっている」と話した。

緊急時に避けたいのは、確認が取れるまで一切発信しないことだ。すべてが判明していなくても、現時点で確認中であること、次にいつ情報を出すのか、問い合わせ窓口はどこかを示すだけで、社外の受け止め方は変わる。

広報は「情報が集まらない」のに「説明責任者」になる

サイバー事故発生時、現場の広報担当者は厳しい板挟みにあう。情報システム部門は原因究明や被害範囲の確認に追われ、「ただいま調査中」という返答になりがちだ。一方、経営陣は被害が確定するまで公表を待ちたいと考える。だが外部では、メディアや取引先からの問い合わせが始まり、SNSでは不安や憶測が広がる。

電通総研 営業第二本部 エンタープライズソリューション営業4部 部長   赤澤卓真氏

電通総研 営業第二本部 エンタープライズソリューション営業4部 部長  赤澤卓真氏

赤澤氏は「広報は十分な情報が集まる前から説明を求められる立場に置かれやすい」と説明した。情報がない。方針が決まらない。それでも電話は鳴りやまない。この構造的ジレンマこそ、サイバー危機で企業が対応を誤る大きな理由だという。担当者個人の力量だけで乗り切る問題ではなく、平時から、情報をどう整理して広報へ共有するか、誰が最終判断を下すか、誰がメディア対応の前面に立つかを決めておく必要がある。

準備がなければ、社内連携のルールがなく、情報システム部門から技術的な情報も下りてこない。広報は推測でメディア対応を迫られ、結果として「隠ぺい体質だ」「対応が遅い」と批判されるリスクが高まる。攻撃を受けたこと自体よりも、その後の説明の遅れや曖昧さが、長年築いた信頼を傷つける可能性がある。

平時のマニュアルが初動を分ける

一方で、平時から備えている企業は初動が変わる。緊急時には、専門チームが技術面の調査を進め、感染拡大の有無や業務再開の判断材料となる事実を整理する。その情報を広報へ迅速に共有することで、憶測ではなく事実に基づいた説明につなげる。

そのうえで、経営陣と広報は事前に決めたルールに沿って動く。経営陣との迅速な方針合意、準備済みのQ&Aリストの展開、緊急コールセンターの即日立ち上げなどを進められれば、説明の遅れや混乱は抑えられる。

マニュアルでは「誰が・何を・どの基準で」判断するかを明文化する。

マニュアルでは「誰が・何を・どの基準で」判断するかを明文化する。

マニュアルでは「誰が・何を・どの基準で」判断するかを明文化する。インシデント発生時の公表基準を事前に決めること、最終判断者とメディア対応者を明確にすること、技術面で難しい内容を広報が理解して説明できる言葉に翻訳した想定問答を用意することが欠かせない。さらに、初動段階で把握した事実を、必要な関係者へ迅速に共有する初期フローを構築しておく必要がある。

ルールを作ってペーパーに落とし込んだだけでは、厳しい質問を受けたときに声が出ない。本番さながらの緊急記者会見トレーニングや模擬演習を行うことで、想定外の質問への対応力が高まる。赤澤氏は、危機対応は個人技ではなく、組織として平時から育てるものだとした。

3つの盾で企業を全方位から守る

電通総研は、こうした課題に対応するため、電通PRコンサルティングと連携してCC360を提供している。電通総研はシステムインテグレーション、コンサルティング、シンクタンクを手掛ける。電通PRコンサルティングは広報・PR領域の専門会社として危機管理広報やレピュテーション・マネジメントを支援している。2社が連携し、「技術+広報+経営」を支援する。

CC360が提供する「3つの盾」

CC360が提供する「3つの盾」

CC360は、経営判断の支援、メディア・SNS対応、高度な技術調査という「3つの盾」で構成される。経営判断の支援では、経営層向け教育やシナリオ訓練、レピュテーションリスク評価、緊急時の意思決定を支援する。メディア・SNS対応では、社外対応支援、SNS炎上リスク管理、プレスリリース文章案のレビューなどを行う。高度な技術調査では、セキュリティ強化や迅速な事実確認と一次業務復旧を支援する。

サイバー危機では、システムの問題だけではなく、経営、広報、情報システム部門の連携不全こそが最大の弱点になる。CC360は、平時の準備、緊急時の伴走、ブランド回復までを同じチームがワンストップで支援する点に特徴がある。

平時にはマニュアル構築、模擬演習、リスク評価を行う。緊急時には緊急コールセンター、技術調査、記者会見支援を担う。事故後は再発防止策、ブランド回復状況のモニタリング、必要な施策検討まで支援する。赤澤氏は、CC360について「冷たいシステムツールではなく、広報に寄り添い、共に矢面に立つ人のチーム」と説明する。

最後に赤澤氏は、サイバー攻撃は「システムの危機」ではなく「ブランドの危機」だと改めて強調した。経営・広報・情報システムが平時から連携し、緊急時に組織として動ける状態を作っておくことが、企業を守る最高の備えとなる。平時の準備は、緊急時の説明を支え、結果としてブランドの信頼を守る基盤になる。

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