リテールメディア活用がプロモーションの新たな潮流として存在感を増している。「購買に近い顧客接点」であることや「購買データを用いたターゲティング」が可能といったメリットがフォーカスされがちだが、店頭を本質的なブランド体験の場として捉え直すと、新たなポテンシャルが見えてくる。
「ドン・キホーテ」運営のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)と博報堂の合弁会社として設立され、リテールメディア開発・販売を担うpHmedia(ペーハーメディア)。同社とロート製薬がタッグを組み、2026年2月にドン・キホーテ限定で発売したコンタクトレンズ装着液「ロートメメ マイシャインドロップ」が、対象顧客を見据えた商品開発と店頭施策との連動が奏功し、これまでの装着液市場を大きく拡大させるヒットを記録している。
本施策において、リテールメディアはいかにして若年層の心と店舗スタッフの熱量を動かしたのか。ロート製薬 HB事業開発部の久富庸人氏、仲吉諒介氏、pHmediaの志摩未緒氏、そして博報堂 コマースコンサルティング局所属でpHmedia COOを兼務する松居達也氏が、PPIHが掲げる「NPB戦略」を通じた共創の裏側と、リテールメディアの未来について語り合った。
目次
独自の商品を揃えるドン・キホーテの「NPB戦略」
━━今回の取り組みの背景を教えてください。
久富:ロート製薬のHB(ヘルス&ビューティー)事業開発部は、これまで主戦場とされてきたドラッグストア向けビジネスにとどまらず、ドン・キホーテやコンビニエンスストアなど、新たな販路の開拓とビジネス創出を担う営業部門です。現在当社はスキンケアの売上構成比が6割を超えるなど変革期にあり、顧客動線の変化に合わせて「売り場起点」の仕掛けを追求しています。
ロート製薬 HB事業開発部 マネージャー 久富庸人 氏
志摩:今回活用いただいた「NPB」は、PPIHが掲げる重要な経営戦略の一つです。メーカーの皆様とともにオリジナリティのある商品を開発し、ドン・キホーテの店舗をテストマーケティングや先行販売の場として活用いただく取り組みです。PPIHの中に商品を囲い込むことが目的ではなく、まずは当社の売り場で確かな手ごたえや実績を作っていただき、それを勢いにして全国の一般流通へ広げていっていただけるような座組みになっています。ドン・キホーテにとっては他店にはない品揃えで差別化につながり、メーカーにとっては新しい商品の可能性を実際の売り場で検証いただくことができます。
仲吉:ロート製薬は目薬市場のトップメーカーですが、近年は若年層の「目薬離れ」が大きな課題でした。そんな中、ドン・キホーテのカラーコンタクトレンズ(カラコン)売り場に足を運ぶと、平日でも学生や若者が集まり、友達と商品を選んでいる。圧倒的な活気がありました。
ロート製薬 HB事業開発部 仲吉諒介 氏
医薬品売り場が店内で離れていることもあり、目薬売り場では届かなくても、「カラコンをつける際に使う装着液」としてこの売り場で提案できれば、大きな勝機があるのではないかと考え、NPBの枠組みで新しい商品づくりに踏み切りました。
カラコン売り場の熱気を受け「可愛い」パッケージへ
━━限定商品「ロートメメ マイシャインドロップ」の開発はどのように進められましたか。
久富:当社の装着液は長年の基礎研究に基づき、防腐剤を配合しない処方や、レンズに直接うるおいを与えることで快適な装着感にこだわった確かな品質があります。一方、容器やパッケージは従来の医薬品的な機能訴求から一変させ、若い方が「持っていて人に見せたくなる」可愛らしいデザインを追求しました。
仲吉:カラコンを選ぶお客様の「かわいくなりたい」「盛りたい」という感情・インサイトに徹底的に寄り添った設計で、ドン・キホーテのカラコン買い場に並んだ時や、お客様が普段のポーチから取り出した瞬間に思わず気分が上がるよう、機能性だけでなく、「コスメ感覚で持ち歩きたくなる情緒的価値」を追求したのが、この商品開発の大きな挑戦でした。
リテールメディアの真価は「店頭体験の設計」にある
━━博報堂とPPIHの合弁会社であるpHmediaは、プロモーションをどのように設計したのでしょうか。
松居:PPIHの購買データを分析したところ、ドン・キホーテでカラコンを購入する方のうち、装着液を購入している割合はわずか約2%でした。このデータと実際の売り場を付き合わせたときに、情報がひしめき合う派手なカラコン売り場では、商品を棚に置くだけでは視界には入っても、認識されないだろうと考えました。
博報堂 コマースコンサルティング局 局長補佐(pHmedia COO兼務) 松居達也 氏
そこで、一部の重点店舗では、処方確認などで必ず立ち寄る「カラコン専用レジ」の前をジャックし、購入者の視界に入るような動線を作ることにしました。さらに一部の店舗では、スタッフから装着液の役割や使用するメリットを直接伝え、購入を後押しする仕掛けも整えました。レンタカーを借りる際に任意保険への加入を勧められるように、「安心のための習慣」として認知を促す体験を設計したのです。
昨今のリテールメディアは、購買データを使ったターゲティング配信ばかりが語られがちですが、ECの効率化ロジックをオフラインに持ち込むだけでは生活者の心は動きません。特に情報過多の現代、広告と認識された瞬間にスルーされてしまう。だからこそ、生活者がブランドと直接出会う「店頭」という地の利を活かした体験設計が重要になると考えています。
店舗スタッフの推奨促し月商3300万円へ急拡大
━━店舗スタッフによる推奨まで巻き込むのは容易ではないはずです。
志摩:そこが店舗の運用を熟知しているpHmediaの強みです。単に本部からマニュアルを流すのではなく、各店舗の店長や売り場のメイト(アルバイト)スタッフに対し、「なぜこの施策を行うのか」「お客様や店舗にとってどんな価値があるのか」を、注力店舗へ直接足を運んで趣旨を共有しました。
pHmedia(ペーハーメディア) 営業部 志摩未緒 氏
松居:このように粘り強く現場の納得感を醸成してくれたからこそ、スタッフが当事者意識を持ってお客様に推奨する流れができました。店頭というメディアの価値を、「生活者発想」に強みを持つ博報堂の体験設計とpHmediaの実行力で形にした好例です。
一部のドン・キホーテ店舗では、コンタクト専用レジの周りに集中展開
仲吉:POSデータ上の売り上げは、発売直後から急激に伸びました。さらに驚いたのはSNSの反響です。店頭で商品に出会ったお客様が、可愛い容器や使用感をオーガニックに投稿し、店頭とオンラインが循環するサイクルが生まれました。
従来、ドン・キホーテにおける装着液市場全体の月間売上は、最大でも500万円規模だったと伺っていましたが、本商品は発売後の月次最高売上が全店ベースで3300万円を突破しており、これは全国のドラッグストアで販売させていただいている別ブランドの月次売上の約300%という数字です。当初の想定を大幅に上回り、店頭の在庫が追いつかなくなるほどの反響がありました。
志摩:社内チャットでも「うちの店でも展開した」「推奨してみた」と投稿が連鎖し、「#ドンコスヒットアワード2026AW」では、ドン・キホーテの美容担当者が選ぶ「ガチ推し」コスメ賞の1位に選出されるなど、店舗側にも強い熱量が生まれました。
博報堂×pHmediaが描く、リテールメディアの将来像
━━今回の成功がもたらした社内外の変化や、今後の展望をお聞かせください。
久富:1社限定のNPBを開発することには、当初、社内でも慎重な意見がありました。しかし、実際に大きな実績を生み出せたことで、ドン・キホーテと取り組むことが、これまで接点のなかった新しいお客様との出会いや、新たな需要の創出につながることを社内に示すことができました。この成果を通じて、ドン・キホーテとの取り組みが持つ可能性への理解が深まり、社内の意識も大きく変わりました。今後もPPIHが持つ会員基盤を活用しながら、「メメ」ブランドの拡張や新領域への挑戦を続けたいと考えています。
志摩:私たちは広告枠の提供にとどまらず、店舗スタッフの熱量までセットで提供できるプロモーションを目指しています。「pHmediaと組んだからこそブランド価値が最大化した」と言っていただけるよう、支援の幅を広げていきます。
松居:リテールメディアの本質は、小売が持つアセットを通じてブランドの価値を生活者に届けることです。広告の枠やデータの精緻化だけに閉じるのではなく、店頭というリアルな場で生活者の感情をどう動かすか。博報堂ではこの買場を起点とし、ブランドの熱量を届けていくリテールメディアの新しい活用方法にいち早く着目し、pHmediaを通じて実践をしています。博報堂の生活者洞察・クリエイティビティと、pHmediaの現場実行力を掛け合わせることで、メーカー様の課題解決と新たな市場創造にこれからも貢献していきます。
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