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コラム

33歳、現場プロデューサーが考えるエージェンシーの未来

CGMのダイナミズム「示す力」と「ゆだねる力」の衝撃

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TIAAでブロンズ受賞『まんがの達人』

前回のコラムに対して、「普段、意識してなかったけど言われてみれば…」「エージェンシーのプロデュース機能への言及に期待」などの反響が早速あり、「アドタイ」の影響力の大きさを改めて認識した次第です。「プロデューサー」という言葉は、受け取る人によって様々なイメージを持っているのですが、本コラムではそれを規定する、というよりは、エージェンシーのプロデュース業の価値についての議論のきっかけになれば、というつもりで、あと11回、自分の体験を通してゆっくり書いていきたいと思います。

今回は自分がプロデューサーを目指した原点についてお話ししたいと思います。マーケターからプランナーに職種が変わってすぐに経験した案件(TIAA2008ブロンズを頂戴しました)が、今の自分の仕事に対するスタンスに大きく影響しています。
2008年1月、アシェット・コレクションズ・ジャパン『まんがの達人』(漫画の勉強ができる分冊百科事典)のプロモーションをニコニコ動画(以下ニコ動)上で実施しました。ニコ動が始まって1年ちょっとのタイミングです。
「商品の話題化」を目的に、「これなら楽しく漫画が学べそうだ」と思ってもらえる企画を考えた結果、「擬似生放送による漫画リクエスト番組」という企画に至りました。(※ちなみに当時のニコ動には生放送機能はありませんでした)
「かおりん画伯」という謎のヘタウマな画伯をキャラクターに立てて、かおりん直通のフリーダイヤル番号をニコ動内バナー広告に掲出、広告を見たユーザーが電話で描いてほしい絵をリクエストすると、すぐにその場で描いて、その様子と絵を撮影した動画をすぐアップすることでリクエストに応える、というゲリラ企画です。(※全体のノリとしては、2011年カンヌの「Old Spice」のキャンペーンと近いかもしれません。こちらはTwitterなどのコメントに対する動画レスポンスをリアルタイムでYouTubeにアップし続ける企画でした)

結果としては、3時間の実施中に消化しきれないリクエスト電話が来て、動画を立て続けに十数本アップし続けて、2ちゃんねるにスレが立ち、クライアントからも「Buzzを作るのにとても効果的だった」とのお言葉を頂戴できました。

さて本施策のプランニングの考え方ですが、自分がプランナー時代に意識していた3つのポイントに基づいて設計されています。

ポイント1:社会の文脈に乗る。
ニコ動が急速に盛り上がっており、本施策のプラットフォームとして選択しました。(ニコ動はもちろん)どんなコンテクストであっても一度乗ると決めたら、徹底的に研究してがっちり掴む必要があります。(中途半端に乗るとコケます)

ポイント2:情報自体に伝播性を持たせる。
(実は当たり前のことなのですが)クチコミの伝播はスキームを作れば促せるものではなく、その情報自体に左右されやすいです。本施策の場合は、「描いてみた」というニコ動内で流通しやすい企画テーマにしたり、「ヘタウマ」という突っ込める余地を用意したりしたこと等がポイントでした。

ポイント3:参加したくなるルール設定。
ハードルが高くても低くても人は良き方向に行動しづらいものです。本施策では、絵の感想は動画へのコメント(ハードル:低)、絵のリクエストは電話(ハードル:高)と、参加ハードルに高低をつけました。というのも、絵のリクエストを動画コメントで受け付けると、(リクエストがさばききれずに)荒れてしまうと判断したからです。結果的にはこの設定で良いバランスがとれたと思います。

以上のような施策にプランナーとして参加して、先輩に色々と教えていただきつつ、バタバタとした現場を体験しながらやり遂げられたことはとても良い経験となりました。なかでも、いわゆる広告クリエイティブと、CGMを主軸にした施策との違いを肌で感じられたことが、今でも糧になっています。
CGM(今ではソーシャルメディアという言葉になりましたが)を施策の一部として組み込んだ瞬間、その施策の作り手はクリエイター(もしくはプランナー、ディレクター、プロデューサー等々)だけではなくなります。その施策のプラットフォームに参加するユーザーすべてが施策の作り手になり、また受け手にもなります。

このダイナミズムが自分の感覚に息づくようになりました。「ゆだねる」感覚です。
そもそも広告クリエイティブ自体、1人では作れませんし、ゆだねる領域はかなりあるように思えます。ただし、そこのクオリティコントロールはやろうと思えばかなり綿密にできます。一方で、“作り手”に不特定多数が入ってくるとそうはいかないので、別軸でクオリティの見せ方を担保する必要が出てきます。それは(参加者個々のアウトプットにフォーカスするのではなく)「参加者がどのくらいの熱量をもって施策を体験したか、またそこからどのような波及効果があったか」ということだと思います。
そういった人々をモチベートするもう1つが「示す」力です。明確で共感できるビジョンを指し示し、施策を通して参加者をモチベートすることができれば、あとはゆだねても、というよりは積極的に参加者にゆだねることで、成功を収めることができるはずです。
そういったことを本施策で初めて経験し、学んだのでした。

「示す」力と、「ゆだねる」力。この2つをバランスよく使うことが、良いプロデュースにつながると思いますし、(プロデューサーの肩書きでなくとも)よい広告施策を実質プロデュースされているクリエイターの方々は、「示す」力だけでなく、「ゆだねる」力も優れているように思えます。

次回は広告の領域を超えて、商品開発について触れていきます。

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【梅田 亮「33歳、現場プロデューサーが考えるエージェンシーの未来」バックナンバー】

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