情報技術そのものではなく、文脈の中に発見されるもの
承前。「メディア」とは何か。この問いも多くの人にとって様々なイメージが思い浮かびやすい。しかし、私は常に社会学的観点からの「メディア」定義を自分の頭の中で採用するようにしている。とりわけ『ソシオ・メディア論』と呼ばれる、メディア系の社会学者の間で使われる視点、である。この視点においては、「情報技術」がすなわち「メディア」ではない。多く一般的には、情報を伝える技術こそが「メディア」である。それゆえ、無意識に情報送信・共有・記憶するデバイス類はメディアと称されるが、少なくとも私にとってそれはメディアではない。情報技術であれ、その他の「何か」であれ、あるモノが社会経済的文脈の中で埋め込まれる「様態」。それが「メディア」なのだ。
例えばメディア論の始祖と言える、マーシャル・マクルーハンの視点では、自動車は「人間の足を拡張するメディア」である。わかりやすく言ってみれば、恋人同士の二人が時計を交換するとする。そのとき彼女が彼氏の時計を腕にしているとすると、それは彼女にとっては、彼氏との関係を表す「メディア」となる。別の例で言えば(古い話になるが)私が大学院で修士論文として提出した「ポケベル」のケース。「ポケベル」はサラリーマンにとって会社から与えられた場合と、(当時の)女子高校生の間で使われていた数文字でやりとりする場合(”084″は「おはよう」と読む、など)では、「同じ情報技術」であるにもかかわらず、「別の使い方・意味」がそこに存在する。
つまりメディアとは、「情報技術」そのものを指すのではなく、情報技術が「社会経済的文脈(コンテクスト)」に埋めこまれたときに「見せ」る、ある種の「様態(あり様)」なのである。だから、新しい情報技術が出てきたからとってそれを新しい「メディア」として捉えるのは大きな間違いなのだ(という立場を私はとる)。むしろそれらが、利用する人々の生活する文脈(コンテクスト)の中に埋めこまれたときに、「どのようなもの」として価値づけられるか、そのイメージができたとすれば、それが「メディア」なのである。
高広伯彦の“メディアと広告”概論 バックナンバー
「高広伯彦の“メディアと広告”概論」バックナンバー
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