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コラム

NYクリエイティブ滞在記

君は、ニューヨークの女子高生を泣かせることができるか。

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原点にもどろう。

まずはみなさまにお礼を申し上げなければなりません。コラムの反響が思ったより大きくて、とっても驚きました。たくさんの素敵なメッセージをいただきました。本当にありがとうございます。コラムの内容が薄いのを反省しながら、Facebookの承認ボタンを押させていただきました。友達がたくさん増えました。おかげで、Facebookに「ラーメン食いたいなー」とか、しょうもないことを書きにくくなりました。無理して、そんなに心配してもいないのに「今後のメディアにもの申す」とか書くようになってしまうのか。変わらない自分でいたい。自分に正直でありたい。正直、ラーメンはとても食べたいです。とくに天下一品が。

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記事とは関係ないんですが、ハドソン川で見つけた無料カヤックスポット。転覆隊の血が騒ぐ。冬になる前にやりたい!

さて、ニューヨークで仕事をし始めて4週間。アメリカで働くといっても、僕とは違って、身一つ、実力でチャレンジされている方はたくさんいます。先週も何人か、こちらで活躍されている日本人のクリエイターたちとお話することができたのですが、真剣さが違う。成果を出して、道をひらいている。僕のような、会社の都合で転勤させてもらえるサラリーマンが、席くらいのことでアメリカを語ってどうするのか、と。まだ何も成してない。がんばらないと。できたての真新しい席を見つめながら、毎日反省したり、やる気を出したり、焦ったり、日本にいるときにはありえなかったスピードで気持ちがぐるぐるしています。ぐるぐるしながら、やっとゲットした企画の仕事にとりかかったところです。

今回のタイトル「君は、ニューヨークの女子高生を泣かせることができるか」は、以前、会社の先輩からいただいた言葉です。僕はもともとコピーライターで、その後デジタルクリエイティブもやらせてもらうようになったのですが、アメリカで日本のコピーライターが働くにあたって大変なのはどこか、という話になったときにもらった言葉。

僕らの仕事は、面白いアイデアや、新しい発想や、刺さる言葉を考えること。売りたい商品のターゲットを想像して、その人やその子が「ほえぇ!」と驚くアイデアを考える。日本にいたときは、相手がおじいさんだって、主婦だって、子供だって、だいたいどんな暮らしで何が好きでどうなりたいかは、そこそこ想像できた気がしてた。だから思いっきり表現を考えることに集中できました。でも、舞台がアメリカになったら?

例えばこっちの女子高生が何を考えてて、何を大事にしているのか。どんなテレビ番組が好きで、どんなデザートが好きで、どんなラーメンが好きなのか。まあ百歩譲ってラーメンはいいとしても、アメリカで子供時代を過ごしていない自分に彼女たちの暮らしが想像できる?彼女たちを泣かせられる言葉を思いつける?…キツいです。面白い表現を考えるだけじゃなくて、どう届くか、どう届けるかを考えるとこから始めなきゃいけない。いや待てよ、これって、日本にいたときは忘れてただけで、当たり前のこと。広告をつくる上では、届き方を考えないで面白いことを考えてもしょうがない。

日本も多様化して、ひとからげに「誰もが面白い映像を誰もが見ている時間帯に流す」だけではうまくいかなくなっているとしたら。手間はかかるけど、一人ひとり相手を見て、考えて、届けなきゃいけない。今までが独りよがりすぎたのかも。僕らの仕事は、考える仕事じゃなくて、考えて、届ける仕事。原点にもどらなきゃ。アメリカに来て、今さらですが、そう思ったのです。

発明するしかない。

こちらでの最初の仕事は、詳しくは何か出来上がってからご紹介しようと思うのですが、弊社にとって新しいクライアントのとある商品で、ターゲットは若い人たち全般。でも、若い人といっても、西海岸なのか、ニューヨークなのか、はたまた南部の人たちなのか、によってまったく状況は違います。

仮にマーケットをニューヨークに絞ったとしても、一筋縄ではいかない。ニューヨークは、ご存じのとおり狭いエリアに、ミルフィーユのようにいろんな文化がつづら折りになっていて。一度にいろいろなカルチャーの味が楽しめるけど、1本のフォークは簡単には刺さらない。富裕層、ヒスパニック、ブラックカルチャー、等々、一枚一枚はがしていくしかない。面白いけど、大変だ。

でも、もし、そんな全く違う人たちに一気に刺さる表現があるとしたら? みんなと幼少時代を共有していない僕が考えられるものがあるとしたら? 僕は、それは新しい価値を「発明」することだと思っています。良い発明品なら、初めての出会いでも、それぞれ違うバックグラウンドのみんなにも、一気に受け入れてもらえるかもしれない。その点では、デジタルクリエイティブはちょっとだけ、「発明」がやりやすい。今まで無かったような価値をつくれるかもしれない。みんなが、同じ時期にデジタルを始めているからね。カルチャーは違っても、デジタルという道具はみんな共通に使ってるわけだから。

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Jobsがいなくなった翌日、Lisaが会社のロビーに飾ってあった。誰がやったのかな。Good Job。

そんなときに入ってきたのが、Steve Jobs逝去のニュース。はるか昔、秋葉原のラジオ会館でApple IIeをさわり倒していた頃からずっとAppleファンの僕としては、本当に悲しいです。そう、彼はその「発明」で、ニューヨークどころか世界中の、まったくカルチャーの違う人たちを一気に振り返らせた。いま、マンハッタンのApple Storeのエントランスには、彼へのメッセージが書かれた、いろんな人たちからの付箋紙がぎっしり貼られています。もちろん彼のようなことは僕にはできないけれど、自分もいつか、クリエイティブの発明でたくさんの人を振り返らせたい。

Apple Storeをのぞいたその帰り道。いつも地下鉄で通勤しているんですが、地下鉄にはほんとにいろんな人が乗っています。寄付をつのる人、Kindleで本を読む人、ご飯たべてる人、すごいファッションの人…。ちょっと空いていたこの日は、急に歌い出すお姉さんがいました。別に寄付やCD販売のためとかじゃなさそう。かなり上手い。でもなんでここで歌うんだろう? 何のために? 歌を聴きながら、このお姉さんに届く表現が僕には作れるのか。またちょっと不安にもなる。でもやるしかない。

そして72St Stationで降りるとき、僕の目の前に座っていた、かなり怖そうなでっかい黒人のお兄さんが、金のブレスレットをじゃらっとさせながら、僕にむかって一言。「I like your shirts.」そう、僕は派手な柄のシャツが好きなのですが、日本だったらふつう見ず知らずの人にそんなこと言わないよなあ。でも言われたらうれしいよなあ。なにかが彼とつながったような気がして、こいつを泣かせるような表現つくってみたい、発明したい、と強く思いながら、ブラザーにグーサインして地下鉄を降りたのでした。

佐々木康晴「NYクリエイティブ滞在記」バックナンバー