同社 齋藤拓磨氏(ブランディング専門部門 IGI ブランド戦略部 ディレクター兼プランナー)が登壇し、JR東日本クロスステーションが運営するコンビニエンスストア「NewDays(ニューデイズ)」のプライベートブランド「ニュータス」の全面リニューアル事例を基に、ブランドのコアを起点とした一貫性のある設計を実践するプロセスを解説した。
また質疑応答では、縦割り組織の壁、経営層と現場のギャップ、根強い既得権益、といったブランディング担当者が直面する様々な壁を越え、企業が自社ブランドを育てるための現実的な道筋について議論がかわされた。
ブランディングとは何か、その本質的価値とは
セミナーの冒頭、齋藤氏は「ブランドとは何か」について多角的な視点を提示した。マーケティングの権威であるフィリップ・コトラーの「顧客との約束」の定義をはじめとして、論じる立場によって様々な捉え方がされる多義的なものであると紹介した。
齋藤氏は、自身がしっくりくる説明として「リビングビジネスアセット(常に変化する、生きた事業資産)」を示した。これはブランド価値の測定基準を示したインターブランド社が用いる定義であり、「ブランドとは社員一人ひとりの接客や商品、SNSなど、すべてのビジネス活動を通して作られる無形価値」という内容である。
「ブランディングが単なるイメージ戦略ではなく、事業成長に直結する投資価値のある活動である」と齋藤氏は強調した。
事例「NewDays / ニュータス」に見るブランドリニューアルにおける課題
続いて齋藤氏は、自身が担当したブランドの全面リニューアルの事例を紹介した。舞台となったのはJR東日本グループのコンビニ「NewDays」。駅の売店から高機能コンビニへと進化を遂げた同社には、意外な問題が潜んでいた。リニューアル以前の「NewDays」は、以下のような状況に置かれていたという。
・パンは「Panest」
・おかずは「いろいろデリ」
・スイーツは「EKI na CAFE」
・他にも、他社との共同ブランド……等
カテゴリーごとにブランドが乱立し、それぞれ違うロゴとパッケージを用いていた。顧客にとって「これは NewDays のオリジナル商品か」が判別困難な状態にあったのだ。
組織の観点にも課題があった。商品カテゴリーごとに担当者が分かれており、組織を横断したブランド整備が長らく行われていなかったという。このような状況に加え、同社は複数の課題に直面していた。
・NewDaysとしての全体方針の不在であり、判断基準が共有できていない
・若年層との接点が弱く、顧客層の健全な新陳代謝ができていない
また、上層部や既存社員からは「ブランディングは本当に必要なのか」といった意見もあり、ブランドの理解を得るのに試行錯誤した。
5ステップで実践するブランドコア設計
齋藤氏は、これらの課題を乗り越えるために実践したプロセスを、以下の5つのステップで解説した。
(1)ブランディングの目的を定める
先述のようにブランディングに対する社内の姿勢がいくつかあり、すべてが応援ムードではない中で、「ブランディング活動は企業課題に対する根本的な打ち手である」として定義し、活動がブレないよう、最初の地盤を整えた。
ブランディング活動に対する社内の姿勢は一枚岩ではない。応援する人がいれば、懐疑的な人もいる。そうした環境の中では、まず始めに活動の地盤を整える必要があるのだ。
NewDaysのブランディング活動においては、目的は以下の三つに絞られた。
1. 社員の意識を統一し一体感を醸成すること
2. 商品を「育てたい」と思えるデザインに仕上げること
3. 若年層との新しい関係を構築すること
この目的設定が、その後のプロセス全体の羅針盤となった。
(2)ブランドの「コア」を定める
最初の相談は「ロゴを整理したい」という限定的なものだったという。だが齋藤氏は対話を重ねる中で「そもそも自分たちはどういう自社ブランドを作りたいのか」という根源的な問いに立ち返った。この問い直しから、プロジェクトの真の意味での出発が始まった。
社内外で共有できるメッセージとして策定されたのは「あたらしい、欲しいをつくる。」そして、すべての商品をお客様へのプレゼントと位置づけ、デザインテーマを「リボン」に設定。パッケージに施されたクロスや一本のラインは、ギフトのような特別感を表現する意思を形にしたものだ。
しかし、この合意形成は一筋縄ではいかなかった。「合意形成には、弊社からの無数のプロトタイプの提示と、担当者・上長・経営層との度重なる対話が不可欠でした。『これなら会社が発展しそうだ』という未来像を共有することで、初めて全員の納得が得られた」と齋藤氏は説明した。
(3) 具体化するルールを定める
コンセプトが定まっても、それを現場の社員が商品企画やパッケージデザインに落とし込むプロセスには困難が伴う。
ここで重要なのは、「守るべきルール」と「工夫の余地」のバランスだ。そこで齋藤氏は、「ブランドを守るための最低限のルール」と「各担当者が創意工夫を発揮できるアレンジの幅」を設計し、各種のマニュアルへ落とし込むことで万人に使用可能な仕組みとして明確に整備した。
加えて、お客さまとのコミュニケーション基盤として「にゅざらし」というキャラクターを開発。単なるマスコットではなく、双方向のコミュニケーションを実現するためのインターフェースとしての役割を担わせたのだ。
(4)ブランドを守り育てる人を育成する
社内にデザインやブランディングの経験者がいないという課題に対し、たきコーポレーションのクリエイターが担当者に帯同し、ノウハウを伝授した。印刷工場に同行して色校正の判断基準を教えるなど、実践的な学びを通じて、担当者が自走できる基盤を築いた。
(5)「前例」をつくる——社内の空気を変える決定的な一手
ここが、齋藤氏が特に強調したポイントだ。社内の懐疑的な空気を打ち破り、変革の本気度を示すため、これまでのセオリーを覆す施策を実行した。
従来の販促ポスターとは一線を画す、「もっとおいしく もっとやさしく もっとたのしく」という新ブランドのコンセプトをストレートに表現したティザー広告が、店舗に並んだ。お客さまからも反応があったことで、社内にも活気が生まれた。
「スモールスタートから大きな成果は生まれない。変革を本気で推し進めるなら、最初の一歩は大きく、目に見える形で示す必要がある」
齋藤氏はこのアプローチを社内で「ビッグスタート・ビッグフィニッシュ」と呼んでいると紹介した。
ブランドの「定義」と「実践」のサイクル
ここで一つの根本的な指摘があった。ブランドのコンセプト、ロゴ、パッケージルール——これらは、あくまで「今後使うための道具」に過ぎない。道具ができたとしても、使わなければ変化は生まれないのだ。
「ブランドの定義が社員一人ひとりの実践——商品開発や日々の振る舞い、デザインの判断や店舗の空間づくりに反映されなければ、意味がない。定義と実践の好循環が、自然に回るようになることがゴールです」
齋藤氏の言葉は力強かった。その実現には、デザインの指示書といったルール整備をするだけでなく、社内説明会を重ねてブランドの意義を伝えたり、商品開発のプロセスにおいても上長がコンセプトを意識した判断を行うなど、「人の気持ち」を動かす仕組みを設計することが、成果を出す上で極めて重要になるという。
各社が抱えるブランディングのリアルな課題
講演後の課題共有では、参加者の各社から具体的な悩みが次々と挙げられた。
「周年を機にブランディングに着手したが、上層部の意識が薄く、過去の成功体験が変革の足かせになっている」
「親会社と自社でブランドコンセプトの認識がずれており、縦割り組織が連携を阻んでいる」
「PRを統括する部署がなく、職員間でブランドイメージがばらばらになっている」
経営層の理解不足、縦割り組織、過去の成功体験の呪縛。参加各社から共有された課題には、共通のテーマが浮かび上がった。
リアルな悩みとブランディング推進のヒント
質疑応答で最も活発に議論されたのが「経営層にブランディングの必要性をどう説明するか」という課題だ。齋藤氏は、2つのアプローチを紹介した。
(1)「言葉のアレルギー」を避ける方法
「ブランディング」という言葉を使わず、認知向上や好感度形成といった具体的な活動内容で話を進める。経営層が抵抗感なく受け入れやすい表現へ置き換えることが重要だ。
(2)「権限委譲」という方法
SNSの利用動向や若年層のインサイトの変化などを例に挙げ、「これは自分たちが判断できる世界ではない」と経営層に意識させる。専門家に任せてもらうというアプローチである。
さらに、ブランド戦略などを決定する際の合意形成については、集団への一斉プレゼンテーションではなく、活動当初からヒアリング等で関与してもらうことが重要と語った。複数の案を提示する際は、個々の案への単純な賛否を問うのではなく、事前に設定した評価軸に基づいて総合的に判断してもらうといったコミュニケーションの工夫ができるという。
そして何より重要なのは、「決定プロセス自体への合意を先に得ること」だ。誰がいつどうやって関わることで結論を導き出すのか、その筋道を共有することで納得感が醸成されるとした。これらの議論を通じて、ブランディングを推進するための実践的な知見が共有された。
当日はシートを用いたブランディングプロジェクトの疑似ワークショップも実施された。各社のブランド戦略を間接的に振り返る機会となった。

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