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地域政党の存続は既成政党との競争に~勝てる政策と実行力にかかっている

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茂原 純(PHP総研 地域経営研究センター・コンサルタント)

自立した地域づくりを目指す

2011年の統一地方選の際に各地で立ち上げられた地域政党だが、橋下徹・大阪市長が率いる「大阪維新の会」と河村たかし・名古屋市長が代表を務める「減税日本」以外は、一般にあまり知られていない。しかし、「地域政党いわて」や「京都党」のように、小さな勢力ながら、政策志向の地域政党も存在する。地域政党が独自の政策を打ち出し、政治勢力を拡大していくことは可能なのか。本稿では、地域主権時代の地域政党の課題と展望について考察する。

地域政党とは、地域に密着して地域の課題解決に取り組む政党である。特に大阪維新の会以降の地域政党は、地域主権へ向けた全国的な機運の高まりと、改革をスピーディに進めない既成政党への不信感を背景として設立されており、国に依存しない自立した地域づくりを志向していると言ってよい。では、地域主権へ向け、自立した地域づくりに貢献する役割を果たしていく上で、地域政党に政策面で求められることは何か。それは3つあると考える。

第一に、地域ビジョンの策定である。いままで地方自治体は、国が示す政策に従っていればよかった。しかし、これからは、中長期的な視野でどのような地域を目指していくのか、地域自らが方向性を定める必要が出てきた。第二に、財政的な自立へ向けた行財政改革である。今後、国に過度に依存することができなくなることを念頭に置きながら、破綻や財政危機に陥ることがないよう、政策を打ち出していく必要がある。

第三に、地域住民のニーズへの柔軟な対応である。特に東日本大震災以降は、エネルギー・災害対策の提示は必須と言えよう。

各党のマニフェスト比較

では、現在の地域政党は、こうした点で独自の政策を打ち出しているのか。首長が主導する地域政党として、「大阪維新の会」、「減税日本」。議員が主導する地域政党として、「地域政党いわて」、「京都党」の4つを事例に、主に各党が掲げるマニフェストを参照しながら、見ていきたい。

まず、ビジョンについては、大阪維新の会は、大阪・関西の強みを活かして、高付加価値を作り出す「ハイエンド(高付加価値創造)都市」と、アジア・日本各地を結び、集積・交流・分配機能を発揮する「中継都市」を将来都市像として掲げている。京都党は「無借金経営都市」や「日本の文化首都」などのビジョンを掲げている。一方、減税日本と地域政党いわては、独自のビジョンを示していない。

次に行財政改革について見ると、大阪維新の会は二重行政の解消を意図した大阪都構想や、地下鉄・バスなどの民営化や不要な資産の売却など、改革にかなり切り込んでいると言える。京都党は「無借金経営都市」をビジョンとして打ち出している通り、財政再建を最優先課題として位置づけており、「市税徴収率の向上・徴収力の強化」や「事業仕分けの徹底」などを掲げている。他方で、減税日本は「議員報酬の市民並み給与化」以外は何も策がなく、地域政党いわても行財政改革の具体策を示していない。

最後に、エネルギー・災害対策である。大阪維新の会は、大阪市が関西電力の筆頭株主であることを利用して、原発依存度の引き下げなどを、関西電力に対して株主提案するという独自策を打ち出している。市内各ブロックへの危機管理室の設置など、防災対策の具体策も示している。また、地域政党いわては、被災地の政党ということもあり、復興版のマニフェストを掲げており、自然エネルギーを全県に広げ、「スマートグリッド」構築を目指すとしている。一方、減税日本と京都党については、そうした政策は示されていない。

有権者への情報開示に課題 地域主権時代に求められる政策

地域主権時代に求められる政策面での要件について、主な地域政党を見てきたが、もちろん、政策をつくるだけでは絵に描いた餅に過ぎない。合わせて、政策の実行力が必要だ。そこで、政策実現に必要な視点と、上記の4党の現状について俯瞰してみたい。

第一に議会における議席獲得数である。過半数を得れば、それだけスピーディに改革を進めていける可能性が広がる。もちろん、首長が主導する政党の場合、二元代表制の観点から議会の過半数を獲得すればチェック機能が果たされないという批判があるのは確かだ。 

ただし、政策をつくり、それを実現したいと願う政党であれば、議席数獲得を追求していくことは当然なことである。


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図1は4つの地域政党の議会における議席獲得数の割合を示している。過半数を獲得しているのは、大阪府にとどまり、大阪市と名古屋市は過半数に近づいているが、他党との協力関係が不可欠である。半面、岩手県と京都市では、10%も獲得しておらず、これでは政策の実現の見通しは暗い。

第二に、地域政党から首長を出すことである。議員のみの地域政党があってもよいが、議会には行政権がないため、できることは限られる。条例制定を目指すのもよいが、条例は政策手段のひとつのツールにすぎない。やはり、改革をスピーディに進めていくためには行政権を有する首長の力が必要であり、地域政党は率先して首長を輩出していくべきだろう。

この点について4党を見ると、まず、橋下徹・大阪市長が主導する大阪維新の会は幹事長の大阪府知事や、顧問の市長2人をメンバーとして抱えている。河村たかし・名古屋市長が代表を務める減税日本は、他に首長のメンバーはいない。議員が主導している地域政党いわてと京都党についても、首長のメンバーはいない状況にある。

第三に、成果の検証と住民への説明である。地域政党が既成政党と競争しながら党勢を拡大し、活動を継続するためには、住民からの信頼の獲得が不可欠である。その際、地域や住民のためにどんな結果を残したのかきちんと説明する必要がある。

とりわけ、マニフェストを提示しているのであれば、その進捗を検証して有権者に報告する義務がある。どの政党も結党から1年以上が経過しているが、成果を公式ウェブサイトで公表している政党はないのが現状だ。大阪維新の会は、2011年の統一地方選より前にマニフェスト『よみがえる大阪』を提示していたので、仮に選挙版でなくとも、その検証をして、2011年の統一地方選の際に、成果を公表すべきであっただろう。

問われる地域政党の経営力

主な地域政党
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以上、政策とその実現の観点から、主な地域政党を見てきた。特に、大阪維新の会の躍進には目を見張るものがあり、政策の内容には賛否両論があろうが、地域政党でもやり方次第によっては、独自の政策を打ち出し、党勢を拡大していけることが見て取れる。特に、ブレインの活用が巧みで、上山信一氏や古賀茂明氏といった官僚出身者の起用により、目玉政策や既得権に切り込むような政策を次々と打ち出している。こうしたあり方は、他の地域政党も学べるはずだ。

減税日本は、目玉政策の市民税10%減税の財源を行財政改革で賄うとしているが、一向に具体策が見えてこない。行財政改革のプロをアドバイザーとしてもっと活用すべきだろう。京都党についても、財政の自立を優先課題としている割に、政策顧問に財政政策のプロが入っていない。地域政党いわては「アドバイザリーボード」をつくるとしているが、その姿は一向に見えてこない。

地域政党が中長期的に持続可能かどうかは、成果をあげて地域住民の信頼を勝ち取れるかどうかにかかっている。目に見える成果をあげられなければ、党の士気も下がり、存続は不可能となる。この点からすると、議員が中心で、議会で少数しか議席を獲得していない地域政党は当分の間苦戦することが予想される。

結局のところ、既成政党との間で展開される、政策とその実現の競争で勝利するための経営力が、個々の地域政党に備わっているのかが問われている。そして、この競争で勝つには、ブレインも活用しながら地域に貢献できる斬新な政策をつくること、成果についての住民に対する説明を重視することが極めて重要になってくるだろう。

こうした点を意識しながら実績を積み上げていけば、地域政党がしがらみのない優位性を活かし、地域主権をリードする役割を果たしていくことも不可能ではないはずだ。

茂原 純(もはら・じゅん)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。2006年、PHP 総合研究所入社。11年より現職。専門はローカル・マニフェスト。首長候補がマニフェストの作成・実現について学ぶための「PHP マニフェスト講座」を企画・推進。首長や会派のマニフェスト検証委員や、行政経営アドバイザーを務める等、マニフェストの評価・実現に関わるコンサルティングに従事している。PRSJ 認定PR プランナー

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