コラム

ガイシの夜明け

世界で高め合う広告の質。

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クリエイティブの質を管理するGPC

「GPCは広告賞ではありません。GPCは自由にアイデアを交換し、会社のクリエイティブの水準を上げるためにつくられたクリエイティブの質を管理するデバイスです」。

2月末、ビーコン(レオ・バーネット・東京オフィス)でGPCと呼ばれるグローバルミーティングが開催されました。これは四半期に一度、全ネットワークが手がけた作品を一同に介し、評価し合う会で、世界に通用する質の高いクリエイティブを保つための取り組み。1992年から今まで20年も続いているそうです。

前回のコラムでガイシは文化が育ちにくいと書きましたが、それはあくまでローカルでの問題であり、レオ・バーネット自体は、1935年からの長い歴史を持つ由緒正しい企業です。以前シカゴの本社に行った時、目の前を流れるシカゴリバーのクルーズを体験しました。シカゴ川沿いにそびえ立つ歴史的建造物たちを巡る名物観光です。さすが世界有数のビジネスタウン、超高層ビルたちは圧巻でした。船上でツアーガイドがひとつひとつの建築名や歴史を語ってくれるのですが「あれが有名なレオ・バーネット本社だぜ!」と紹介されたとき、はじめてレオの偉大さを実感しました。

GPCは、グローバル・プロダクト・コミッティの略です。「プロダクト」はレオ・バーネットで制作された製品(広告表現物)のことを指します。僕はあえて「アドバタイジング」ではなく「プロダクト」と定義をしていることにとても共感しています。トラディショナルな広告から新しいサービス開発に至るまで、枠や制限をつくらず、人を動かす製品として捉えている姿勢が好きです。このコミッティには各リージョンからCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)やECD(エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)が20名ほど参加します。マーク・タッセル氏を筆頭に国際広告賞を多数受賞し、審査員やスピーカー経験豊富な著名人たちばかり。同じネットワークの傘の下、これだけの豪華メンバーがいる。心強い限りです。

GPC TOKYOのコミッティメンバー

GPC TOKYOのコミッティメンバー。中央の全身黒い方が伝説のマーク・タッセル氏。 その後ろのお茶目な男が「earth hour」や「photo chains」を手がけたシドニーのアンディー。 その右のダンディーな方がレオ・バーネットアジアパシフィックの社長、ヤレック氏。

GPCでは、P&Gやマクドナルド、コカ・コーラなど世界で担当しているブランドの作品を同じテーブルに並べて批評、ノースアメリカ、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アジアパシフィックとリージョン毎の作品について議論、その後、優れた作品をもう一度じっくり見直します。5日間に渡る濃いミーティング。審査会場には限られたメンバーしか入れませんが、開催オフィスのビーコンでは、その様子を別室で中継しました。僕を含め多くの社員たちが、いまだ海外広告賞などに出回っていない出来たての優れた作品に触れることができ、普段見られない審査員たちの議論も傍聴できました。また、個人的に自分の作品に対してのアドバイスを貰ったりも。これはもう、福利厚生と言っても過言ではない貴重な経験です。世界のネットワークに感謝です。

恐ろしいことに次回からは僕自身がGPCのメンバーになり、審査の輪に入ります。ひとつひとつの発言がネットワーク全体で見られていると思うと、今まで経験したどの海外広告賞の審査員よりも緊張しますが、他国の仲間と深く強い絆をつくれることにワクワクもしています。また他国のオフィスを訪れることも興味があります。前回はリオ・デジャネイロ。審査員たちが踊りまくっている写真が流出していました。羨ましい…次はどこだろ?ぶっちゃけ最も気になってます(笑)。

称賛されるエイトボール&セブンプラス

GPCではすべての作品を10段階で評価します。7点以上を獲得したものはレオ・バーネット公認「世界に通用するクリエイティブ」とされます。これを7+(セブンプラス)と呼んでいます。

「7+の作品を制作することは、レオ・バーネットのネットークの門をくぐる誰もが払わなければならない入場料みたいなもので、先任者が築いてきた遺産や水準に応えていく義務がある」。

7点はあくまで水準、6点以下の作品は全く評価されません。厳しい話です。

またその上にあるのが8点、通称エイトボールと呼ばれ、拍手喝采を浴び、トロフィーとしてビリヤードの8番ボールが贈呈されます。各国がこの8ボールを手にすることを目指しています。CCOのマーク・タッセル氏によれば、この8ボールを獲得したものの80%はカンヌ等の国際広告賞でシルバー以上を獲得するというデータがあるそう。現にカンヌグランプリで言えば、昨年メルボルンが手がけた「see the person」、一昨年のシドニーの「photo chains」、3年前のビーコンの「yubari fusai(夕張夫妻)」などが当時のGPCで8ボールを獲得していました。毎年200作品以上が7+以上の評価を得ており、その大半が何らかの国際広告賞を受賞している事実があります。こんなにも身近にグローバルスケールを感じられるツールがあることはクリエイティブエージェンシーにとって何よりの強みです。

近年、広告賞で3分ほどのキャンペーンビデオを作ってエントリーするケースが増えていますが、ビデオの構成や作り方は海外の方が長けていると思います。全体をエンターテインメントと捉えて飽きさせず要点やアイデアをしっかり伝える。僕らはネットワークの繋がりを使って、コツや要点を教わり、さらに作ったビデオを見てもらいアドバイスを貰う。そんなことが当たり前にできる環境があります。素晴らしいことです。

今回のGPC東京、ビーコンは2つの8ボールと4つの7+を獲得しました。なかなかの成績でした。

これらの作品はカンヌをはじめとする主要広告賞にエントリーされます。しかもレオ・バーネット本体がエントリー費を全て負担!! ありがたい話です。

HumanKind

10段階の評価基準。「人の行動を変える」ことが我々の使命。

自らの環境を受け止める日本のBAR

GPCにはどの国も7+以上の評価が期待できる作品しかエントリーしません。それを選定するために、それぞれのローカルでGPC同様の取り組みをしています。ビーコンではBAR(ビーコン・アクト・レビュー)と呼んでいます。先日1月〜3月の作品を集めて開催しました。GPCと同じ10段階の評価スケールを活用し、フィルムやプロモなどカテゴリー毎に評価していきます。

社長や営業、ストプラなどクリエイティブ以外のメンバーも参加し、評価とともにどうすればもっと良くなるか、7+に届くかなど前向きに議論しています。それぞれのブランドに事情や状況がありますが、GPC同様、都合は通用しません。それぞれの作品の前段は3つのシートで完結させなければなりません。「1.Brand Purpose(ブランドが何のために存在しているか)」「2.Human Behavior(人を動かすインサイト・深層心理)」「3.Campaign Idea(その作品のアイデアを一言で)」。

BAR

半日かけて行われるBAR。批評も称賛も飛び交う。終わった後はグッタリ。

この前段によっては、どんなに作品の見た目が良くても点数が悪くなる場合があります。ブランドやターゲットの理解とアイデアがつながっていないものは、弱い。キャンペーンビデオを作っても、問題提議とアイデアが直結しない複雑なものになる。日々訓練です。また、BARやGPCの7+獲得は個々の評価につながります。だからこそ、真剣に取り組まねばなりません。

今回のコラムを書いてみて、僕はいかに自分のクリエイティブ環境が恵まれているかということに改めて気づきました。クリエイター兼マネジメントとして、常に強い作品を生み出し、人の行動を変えクライアントのビジネスを伸ばすことを実践しなければならないし、それを全社員に浸透させなければならないと感じています。こんなに楽しく刺激的な仕事はありませんから。

三寺雅人 「ガイシの夜明け」バックナンバー

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