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イスラームの怒れる若者たち。政権交代の主役たちのいま

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塩尻 和子(東京国際大学特命教授、国際交流研究所長、筑波大学名誉教授)

アラブの春は終らない

Amine Ghrabi_photo

2011年初頭のチュニジアの「アラブの春」を物語る写真。「真の民主化と幸せな暮らしを築くまでには課題が山積している。それでも希望を失わず、やり遂げたい」
(写真を撮影した医学生Amine Ghrabiさん談)

2011年1月のチュニジアの政権交代から、2月のエジプトのムバラク大統領の退任、10月のリビアの暫定政権による全土掌握まで、成功裏に終ったとみなされる歴史的な民衆蜂起は、「怒れる若者たち」を中核とした運動によるものであった。ソーシャルメディアがその後押しをしたことは言うまでもない。

あれから1年以上が経過した現在、これらの若者たちにとっても他のイスラーム社会の若者たちにとっても、彼らの苦悩はさらに大きくなっている。

中東民主化と若者たちの苦悩

2010年12月にチュニジアの地方都市で発生した若者の抗議の焼身自殺を発端として、2011年1月から10月にかけて、エジプト、リビアへと伝播した民衆蜂起は、中東地域の近代史を塗り替える大きな地殻変動をもたらした。

これらの国々では、第一次世界大戦から第二次大戦後にかけてヨーロッパ列強による植民地支配から脱却し、国民国家として独立を達成して以降、どの地域も新しい国家形成の手段として長期独裁政権を受容れてきた。これまで世界中の多くの人々が、これらの独裁政権の安定と継続を信じていたところへ、自由と民主化、経済発展と雇用の充実を求めて、「怒れる若者たち」を中核とする民衆蜂起が燎原の火のように広がったのである。

本稿では、とくに北アフリカの三国を中心として、中東民主化の過程における若者たちの苦悩の原因を検討する。

突出する若年層人口と高い失業率

昨年の北アフリカ三国の民衆蜂起の背景として、若者を中心とする人びとの失業率の高さと政治不信が上げられている。これらの国の政府は、教育水準を上げることには熱心であり、とくにチュニジアでは大学の新設や学生数の増員が図られ、海外留学も推奨されており、高学歴の若者が増えていた。

エジプトでもリビアでも大学を含めて公立学校の授業料は無料である。しかし、大学を卒業しても高学歴の彼らが望む仕事はなく、まして十分な教育を受けていない未熟練労働者には就職口はさらに乏しかった。2010年12月にチュニジアの地方都市の青年が焼身自殺をした背景には、強権的な警察制度だけでなく、貧困と失業という根深い問題が横たわっていた。イスラームの教えでは「自殺」は神の意志を冒涜する大罪とされているが、この青年の自殺は単なる自殺とは受け取られなかった。これを契機に各地・各国で民衆蜂起の連鎖が始まったのである。

塩尻 和子(しおじり かずこ)
東京国際大学特命教授、国際交流研究所長。1944年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科宗教学・宗教史学専攻博士課程満期退学(博士(文学)東京大学)、筑波大学理事・副学長を経て現職に。筑波大学名誉教授。専門分野はイスラーム思想、比較宗教学、中東地域研究。最近の主な著作として、『イスラーム哲学とキリスト教中世』(『神秘哲学』)(共著、岩波書店、2012年)『イスラームの人間観・世界観』(筑波大学出版会、2008年)『イスラームを学ぼう』(秋山書店、2007年)『リビアを知るための60章』(明石書店、2006年)

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