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“投資家”視点で出版する――京大No.1人気教官 瀧本哲史さん

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マッキンゼー&カンパニーを経て、独立。京都大学で最も人気のある講師・瀧本哲史さんには、エンジェル投資家としての顔もある。投資家と執筆者という2つの視点を持つ瀧本さんの知見は、出版の未来に強いメッセージを残す。(この記事は、『編集会議2012年夏号』(@henshukaigi)に掲載した記事を再構成したものです。)

(「私がライターになれたワケ」 編集・ライター養成講座 修了生が語る講座説明会 23日、24日に開催!)

“後追い企画”を出す出版業界の悪癖

昔、ヘッジファンドの帝王 ジョージ・ソロスは「コピー機を普及させれば世の中が変わる」と考え、東欧の文化・科学機関に、大量のコピー機を寄付しました――まさに本はコピーの塊です。書いて、印刷して、世の中にたくさん配れば、世の中を変えることができます。

私は、『僕は君たちに武器を配りたい』(講談社)、『武器としての決断思考』(星海社新書)の2冊を同時に発売しました。草創期のベンチャー企業に投資する「エンジェル投資家」としての仕事と、京都大学客員准教授として研究や講義に携わる私が書籍を出したのは、作家になりたかったからではありません。「全国中学・高校ディベート選手権」(ディベート甲子園)のプロモーションのためです。一方で、投資家としての視点で、「成功するはずだ」と感じたからでもあります。

投資家の立場からいえば、成功するプロジェクトには3つの条件があります。1つめは「タイミング」。東日本大震災の影響もあって、今回の出版は1年以上延期されていたのですが、結果的に、「いつまでも落ち込んでいる場合ではない、何とかしなければ」という空気で社会が満ちた時機に出版できました。2つめは「テーマ」です。これも、世情をとらえていました。

3つめは「チーム」。『武器としての決断思考』の編集者は、「ニコニコ動画」で配信した私の講義を見て転職を決めました。『僕は君たちに武器を配りたい』を手伝ってくれたライターは、この本の草稿を読んで独立しました。装丁の吉岡秀典さんは、名装丁家祖父江慎さんの弟子で、この本が独立後初の仕事。奇しくも、今回の出版をきっかけに人生の分岐点を迎えたスタッフが揃ったプロジェクトで、何を間違っても失敗できないと真剣に取り組んだわけです。とても条件に恵まれたプロジェクトでした。

6月に「交渉」についての本を出版するつもりですが、1冊ベストセラーが出ると、いろいろな出版社の編集者が、似たような企画を持ってくるのは、出版業界の悪癖です。短期間で多く発刊し、出版点数を増やしたいというのは、出版社の事情。私は本を短期間で制作しようという気持ちは全くありません。

今回も、10年経っても売れ続け、人生に迷う20歳代、30歳代が必ず通過する本にしようと考えました。そのため、執筆期間以上に編集期間を設けて、徹底的に企画会議を繰り返しています。掲載する事例ひとつとっても、10年後でも通用するかを吟味しました。

どの編集者と、どの企画を進めるかの判断は、投資判断とよく似ていて、ベンチャー企業への投資と重なる面があります。初版は少ない部数で勝負して、売れ行き次第で徐々に部数を増やして売り伸ばす。発行する書籍のいくつかでヒットを出せればいいのです。この考え方はベンチャーキャピタルも同じで、たとえほかの企業への投資で損を被っても、ひとつ、グーグルのようにホームラン級の投資が成功すれば、すべて回収できるわけです。

(この記事の全文は、『編集会議2012年夏号』にて)

編集会議2012年夏号
『編集会議2012年夏号』
芥川賞作家から、投資家、アイドルまで いまどきの編集者、ライターの働き方
デジタルネットワークの普及がもたらした情報流通量の増加という点で見ると、編集者やライターを必要としている新たな仕事が多く存在している。取り巻く環境が大きく変化する中、いまどきの編集者、ライターの働き方にはどのような変化が起きているのか。

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