宣伝会議「広報担当者養成講座」の講師9人が、広報の実務に役立つポイントをまとめた書籍『広報入門 プロが教える基本と実務』(「広報会議」編集部監修)が11月に発刊されました。著者の一人で、大手医療機器会社で広報部門を長年率いた君島邦雄氏(ココノッツ・代表取締役)に、今、広報の現場で起きていること、実務家に求められていることを聞いきました。
従来のプレス対応だけでは仕事にならない
近頃あらためて感じるのですが、広報の仕事がますます難しくなってきました。
そもそも企業人にとって広報は、他の業務には応用できそうもない知識やノウハウを詰め込まないと仕事にならない異端の分野ではあったのですが、それに加えて最近はネットやソーシャルメディアなどについても知らなくてはどうにもならなくなりました。
それもただ「知っています」というだけでは何の役にも立ちません。自分で使いまくって、その世界の方向感覚を身につけなくては活用のアイデアなど浮かぶはずもありません。新しい技術や手法に対しては、せめて先頭集団に5メートル遅れくらいでついて行かないと、どんどん引き離されてしまいそうな恐怖さえ感じます。
広報はかつてプレス担当と呼ばれたように、その基盤をマスメディアに置いてきました。ところがそのマスメディアへの社会の信頼がどんどん失われてきました。デイリー・プラネット紙のクラーク・ケント記者まで辞表をたたきつけてネットニュースを始めるというのですから大変な状況です。従来と同じようなプレス対応だけではとても仕事にならない、というのが広報の第一線にいる人たちの共通認識でしょう。
深化する広報部門のミッション
広報の仕事が難しくなってきた理由は別のところにもあります。
ネットの発達と軌を一にして、これまでのマス広告に依存するマーケティング手法に疑問が出され、広報と広告、広報と販促との垣根が限りなく低くなってしまいました。つい10年ほど前までBtoC企業の広報担当者は、製品のマーケティングにもっと広報を活用してほしい、それによって広報部門の存在価値を高めたいと訴えていました。ようやくそれが実現したと思ったら、一気に広報の仕事をしているのか販促の仕事をしているのか分からないところまで行ってしまったというのが、現在の状況です。
では、マーケティング広報はこのまま広告や販促に吸収されてしまい、広報は企業広報とIRと社内広報だけにやせ細ってしまうのでしょうか。そうかもしれません。現に外資系企業などにそのような兆候が見られます。そうかもしれませんが、企業とそれが寄って立つ基盤である社会との間に、お互いに利益をもたらす関係を作り上げようという広報の理念は、広告や販促の考え方と相反するものではありません。むしろそれなくしてはマーケティングが成り立たないのが現在の企業と社会の関係です。いかに広報的な考え方を企業活動の隅々にまで浸透させ拡大させていくか、それが広報部門の重要なミッションになってきたのです。
そのミッションを実現するためには、広報の仕事をしておられる方々に、これまで以上に広報の基本となる考え方や理念を理解していただく必要があります。一方でより高度な広報手法や新しい技術を取り入れて専門性の高い仕事ができるようになっていただく必要があります。そうでなければ広報の存在価値は限りなく小さくなってしまいます……と、こんなことを考えていくと、つくづく広報は難しくなってきたなあ、と感じてしまうのです。
そういうタイミングで宣伝会議からこのほど発刊された『広報入門-プロが教える基本と実務」。私も執筆者の一人なので手前味噌もいいところですが、それぞれの分野の専門家や経験者たちが実務に役立つ知恵と知識を懇切に説明しています。私自身、一読して教えられること、考えさせられることが多かったことを白状しておきます。
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