二十年近く大阪をベースに東京を行き来して編集を生業にしていると「関西の味」についての取材やコーディネーションの依頼を頻繁に受ける。「大阪ならではの味を取材したいんですけど…」や「京都ならではなハンナリしたお店どこか知りませんか」とか「神戸って感じのオシャレなお店はどこですか」といった類のオファーだ。
関西で編集やライティングの仕事をやっている者にとって常につきまとう大問題なのである。そもそも東京スタンダードの思っている関西と常にアップトゥデートに情報が更新されている生活拠点である関西のそれとの乖離が激しいのである。「もっとコテコテな大阪!って感じの店ないですかね」などと訪ねられてもそんな店は知らぬし、いったい何をもってコテコテなのかがわからない。「儲かりまっか!ソースこってりかけときまっせ」みたいな店は大阪には本当の意味では無いし、あったとしても絶対に行きたくないし、読者にも勧めたくないのである。
京都のイメージにしてもそうだ。「穴場的な寺とか、誰も人が居ないけど桜が満開な庭とか無いですかね」などと注文をつけられても、そもそもそういう寺社は取材拒否だし、雑誌に載せる必然性は無いのである。じゃぁ「舞子さんがプライベートで行くようなカフェとか」ってのも困る。舞妓さんだってプライベートは普通の女の子だし、普通の生活をしているのだ。殊更そういう人が御用達なんて店はなく、個人も問題なのである。
そういう記号化された関西イメージに大いに振り回され、東京の編集部は少々の消化不良なりを起こし、不本意に気持ち悪く仕事が終了したりするのである。
これを逆で言えば「東京で常に蕎麦をすすっていて、べらんめぇ〜な話し方するお店無いですか」というのと同じである。確かにそういう店主の店があるかもしれないが、そこに行って何を見て何を食えば良いのだ?と思ってしまう。
情報誌やレジャー誌は創作物では無い。ご当地という基準も時代と共に変わっていく。何だか編集者のイメージだけが旧態依然としている気がしてならない。こういうのをいっそガラパゴス編集者と呼んでしまおうかといつも思うのである。
石原卓「東奔西走 関西の編プロ社長奮闘記」バックナンバー
- 第4回 編集とは行儀ではないかという仮説(11/16)
- 第3回 江戸好みの京都特集ってどうよ!(11/9)
- 第2回 版下の時代にあったモノ(11/2)
- 第1回 企画書の開き方、東西東西。(10/26)
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※本コラムの執筆者 石原卓氏は大阪教室にて登壇します。
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