コラム

編集・ライター養成講座修了生が語る いまどきの若手編集者・ライターの生き方

編集者・ライターの仕事は、「自分だけの仕事」を見つけることだと思う。<後編>

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森 オウジ(フリーライター・編集者/編集・ライター養成講座2005年大阪教室修了)

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想定外に独善的で、論理的なのに実験的で、方法論化できない。だからこそ、本づくりは面白い!

感動は、嘘をつかない

僕がまだ京都に住んでいた4年前のある日、突然「海士町というところで音楽祭をみんなでつくるから君も来ないか?」と、友達に誘われて、どこにあるのかも分からないままに連れていかれたのが島根県の隠岐諸島・海士町であり、『僕たちは島で、未来を見ることにした』の著者、株式会社巡の環・阿部裕志・信岡良亮との出会いでした。

その後、彼らと友人になって、何度か海士町へ行き、遊びはもちろん、取材などの仕事をともにして、「僕らの本をつくってくれないか?」と持ちかけられたのがこの本の生まれたきっかけです。

本の制作が始まった時は、彼らが海士町で学んだ「新しい生き方」や、「島の組織論」などを企業研修としてパッケージングして発信する基幹教育事業「めぐりカレッジ」の段階的実施に着手していた頃でした。

彼らとしてはこの本を、ゆくゆくはその基幹事業の教科書として位置づけたいという動機もありました。つまりこの本づくりは、彼らの社運を左右する大役なのでした。

とはいえ、僕は地域やエコについてはこれといって深い知識もバックグラウンドもない上、彼らも処女作。お互い最初は自分が何をできるのか分からず、とにかく形になるのかどうかを、つくりながら探っていきました。

ちなみに、僕はフリーランスですから、本づくりの間は、お金が一銭も入りません。単行本の制作はここが一番タフな部分です。いかにして走り切るか、そのスタミナをどこから調達するかというのも、フリーの編集者、ライターの仕事のひとつと言えるでしょう。

僕が続けることができたのは、極めて個人的に、彼らを魅力的に感じたからに尽きます。

話は再び4年前に戻りますが、僕は海士町に行った数カ月後、当時籍を置いていた関西のとある出版社を辞め、100万円とMacを持って上京、フリーライターとして活動しはじめました。コネなし、金なし、実績もなし。それでも自分を試さなければいけない時が人生では何度かあるもので、僕は流星のごとく東京に現れた。でも、そんな名もない流星、誰も見ていません。ただ勝手に落ちてきた星クズです。

この僕の人生実験こそ、海士町にいた彼らに影響を受けたものでした。自分と同世代の若者が、 自分で自分の居場所を探し、見つけだしたひとつの離島。そこで彼らは、自分の好きな仕事をして生き生きとしている。その姿に僕は衝き動かされたのです。

そんな背景もあって、僕は編集者として、「彼らを有名にしたい」「もっと多くの人に知ってほしい」という、いわば恩返しのような気持ちとともに、ひとりの人間として、彼らの生き方に惹かれてこの本をつくっていきました。きわめて独善的な編集方針です。

しかし、編集者の心がきちんと震えた本は、必ず読者の心を震わせるというのは真実だと僕は思います。ひとりの人間としての自分、そこから本づくりの原動力を生み出すことは、時にはマーケティングに時間を費やすよりもずっと重要かもしれません。感動は、誰にとっても正直な感情。結局それだけが真実だったりするのかもしれませんね。

愛すべき無駄を、本当に愛する。それが本づくりでは大切なこと

本の制作が始まると、僕は海士町と東京を行ったり来たりし、週に一度は彼らと「スカイプ」を用いて編集作業を重ねていきました。でき上がってはボツにし、またそのボツ原稿から新しい発想が生まれ、を繰り返すこと1年以上。できたものの第一章を、月刊『ソトコト』の編集長に直談判し、出版が決まりました。

その後、僕が『逆行』(ミシマ社)という本をお手伝いした、soup designの尾原史和さんにデザイナーとして加わっていただきました。町長を含む海士町の方々十数名への取材を重ね、『僕たちは島で、未来を見ることにした』は今の構成と形になり、のべ2年の時間を経て出版されたのです。

また、本書ではタイトルをつくるのも僕の仕事でした。なんとなく、島の内側にいる著者ではなく、島の外側にいる僕の目線からタイトルをつけたほうが面白い、手にとってくれる人の幅を増やせるのではないかと考えたからです。

タイトルは本の可能性を握ります。そして、僕はタイトルを考えるときにいつもやっていることがあります。

それは、とにかく書店や図書館を走り回って、気に入ったものや面白いタイトルを100個集めることです。それらを大きめのポストイットに書いて、部屋中に貼り出します。仕事場はもちろん、キッチンに寝室、トイレに至るまで、あちこちに貼り出します。そしてその中で、タイトルを考える日々を過ごすのです。

こう書くと、いかにも役に立ちそうでしょう? しかし、これが役に立ったことが一度もないのです。残念ながらテクニックとしては、まったく役に立たない。結局、僕の場合、タイトルはいつの間にか、どこからか頭にインスピレーションが“侵入”して、ある時ふいに輝き始めるんです。それをコントロールすることはできないし、本当に起こるかも分からない。

でも僕は、タイトルを考えるときにはこの貼り出し作業を常に行います。人には、無駄と分かっていても、それをやらないと次に進めないことがあると思います。僕にとっては、このタイトル貼り出しなんです。

そして今回も例外なく役に立たず、ある日突然、タイトルは決まりました。この無駄な作業は、今回も愛すべき無駄のままでした。

本というのは情報媒体です。よって論理的かつ計画的に進みそうなものですが、実際につくる時というのは、限りなく不確定な出来事に左右され、数字ではないものを数値化しようとするような実験、さらには発明に近いプロセスです。

その極めて方法論化しにくいプロセスを経てこそ、この世にまだ存在していない価値を、本という物質に形作ることができる。そしてそれに著者、編集者、デザイナー、出版社が情熱を持って挑む。僕はその空気感が好きだから、本づくりをしているのかもしれません。

それに、自分が関わった本が、これからの海士町、つまり日本のどこかの「場所」の未来に、何かの良い影響を与えられるかもしれないのです。

これは今回の本づくりの、大きな達成感であり、僕にとっての「自分だけの仕事」のひとつでした。

【1月31日】19時~ 森オウジさん登壇、編集・ライター養成講座 説明会開催

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『僕たちは島で、未来を見ることにした』
「社会が変わるとき、自分たちはどこに居たいだろうか」 僕たちが選んだ場所は、ニューヨークでも東京でもなく、 島根県の離島、隠岐諸島にある海士町だった―――。離島で起業。 その目的は、島の「学校」をつくること。 そして彼らが移住した、島根県の離島・海士町では、新しい社会のカタチを模索するための、様々な実験が総出で行われていた。全く新しい未来への視点として「島」を見出した彼らの生き方を、冒険起業譚として綴る、島と地域と未来の入門書。
木楽舎刊、1890円(税込)。

森オウジさん
森オウジ(もりおうじ)
京都生まれ。STUDIO VOICE、CINRA.NETなどのカルチャーメディアをはじめ、ダイヤモンド・オンラインやプレジデントといったビジネス寄りのメディアまでで、インタビュー記事等を執筆。書籍ではスープデザイン・尾原史和著『逆行』(ミシマ社刊)、成毛眞著『成毛眞のスティーブ・ジョブズ超解釈』(KKベストセラーズ刊)などに携わる。最新作は阿部裕志・信岡良亮著『僕たちは島で、未来を見ることにした。』(木楽舎刊)の編集・構成。新刊も準備中。目下の興味は、サイエンスライターとして活動を広げること。

『編集・ライター養成講座 総合コース』
今回のテーマは、「だれも見たことのない企画の生み出し方」。編集者・ライターに必須のものの見方、発想の広げ方、アイデアを実現させる方法など、優れた企画を生み出す方法とは?「編集・ライター養成講座 総合コース」にて、現在講師を務める『日経エンタテインメント!』 編集委員・品田英雄さんの講義を体験できます。

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