「地球という惑星の物質的限界のなかで、人口が増え続けても、豊に暮らすためには、明確な境界を設けるとともに、消費や環境への見方やものの考え方を変える必要がある」

これは、1月21日の英ガーディアン紙に掲載されたジュリア・マートン‐ルフェーブル（Julia Marton-Lefèvre）、ピーター・バッカー（Peter Bakker）、ジョーン・ロックストロム（Johan Rockström）によるレポートの冒頭部分である。本レポートでは、人間社会と対立するものとして自然を位置づける西洋の文明観から、自然と調和してこそ人間社会の発展・繁栄があるという東洋的な文明観に基づいた政治経済システムへの転換の重要性を示している。以下にその概要を紹介する。

スイスのダボスで行われている世界経済フォーラム（World Economic Forum）では、世界経済の行方に焦点を当てた議論が行われている。今週、世界の政治やビジネス、市民社会の有力者たちが、年に一度の世界経済会議に集まっている。この揺れ動く時代にどのような決断をするのかという難しい課題に全世界が直面するなか、今年の世界経済フォーラムでは「レジアント・ダイナミズム（強靭性・復元力の力学）」をテーマに議論が行われている。リスクを最小化し、経済と社会の強靭性・復元力を押し上げるにはどうしたらいいのだろうか……。

ニュースの見出しは、不安定な世界経済の情勢や、世界中のさまざまなところで起きている政治的な変動を報じている。しかし、重要なことが看過されているのではないだろうか。それは、いかにリスク・マネジメントを成功させ、地球を危機的状況に陥らせないかということである。

数年前、ストックホルム・レジリアンス・センターで28人の科学者が、人類が持続的に発展するための9つの境界を特定し、定量的に示した。過去200年間で、そのうちの3つが超過してしまった。

しかしながら、70億の人々が住む地球上で人間のためのスペースを安全に運営管理することだけが最優先事項ではなくなっている。財政や政治の危機は、貧困や健康、生物多様性の減少や気候変動といったほかの危機に割り当てられたリソースをほとんど消し去ってしまったのである。

世界の有力な組織は、いまよりもさらに裕福で安全な地球のビジョンを示そうとしている。そして、私たちは成長の限界を喧伝しているのではなく、その代わりに、科学に基づいてリスクが高まっていることを真剣に受け止め、世界は新しい開発のパラダイムを必要としていると結論づけている。それを達成するためにはいくつかの必達事項があるとしている。

まず、人間社会の繁栄に直接影響する決定的な開発の限度・境界を示す計器類を開発する必要がある。そうした計器類は超えてはいけない転換点を見定めるのに役立つ。それを地球KPI（キー・パフォーマンス・インディケーター）と呼ぶ人たちもいる。

次に、消費と開発を地球の限度内にとどめる必要がある。資源には限りがあるということを認識する必要がある。これを達成するためには、生態系サービスの本当のコストと価値を理解し、GDPや企業の有価証券報告書のなかに反映する必要がある。賢明な公共政策はこれを促進させることができる。

最後に、そしてもっとも重要なのが、私たちのマインドセット（思考様式）を変えることだ。長い間、私たちは自然から人間社会を守るとか、自然の力に対して、人間のコントロールによって対向するといった考え方をしてきた。しかし、本当は健全な自然環境こそが、効率よく貧困や気候変動に対する強靭性や復元力を高め、環境と調和した包括的な成長を促し、未来の世代のために、人間社会の幸福と地球のためのソリューションを提供することができるのだ。

グローバルな持続可能性への移行は選択肢のひとつではなく、不可避なものである。高まる環境リスクはあまりにコストが高く、かつ危険であることは火を見るより明らかである。いまこそ、自然資本への投資を始めるときである。ダボスに集まった世界のリーダーたちが十分に賢明であるならば、リスクはむしろチャンスになるだろう。

『環境会議』編集部訳。原文はこちらのサイトで読むことができる。

『人間会議2012年冬号』
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