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コラム

編集・ライター養成講座修了生が語る いまどきの若手編集者・ライターの生き方

そのことは書きたくなかった――だけど多くの人と繋がれた【後編】

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岡崎杏里(エッセイスト、フリーライター/編集・ライター養成講座 総合コース 第13期2006年春 東京教室 修了)


前編はこちら

担当編集の信念に動かされて

「絶対に介護のことを書きなさい!! それに励まされる人がいるから」。

講師の伊藤寿男先生のひと言により、「両親の介護と看病の日々」というテーマで卒業制作を書こうと決めたものの、それはとても大変な作業でした。心療内科に通うまで追い詰められた日々のことを思い出すわけですから……。それまでも編集の仕事をしていたので「書く」ということには慣れたつもりでいました。ところが「自分のことについて書く」ということには慣れておらず、イチから書くことについて新たに考えさせられたのです。

こうして、初めて書くことにより「自分をさらけ出す」という体験をした卒業制作は優秀賞をいただきました。さらにちょうど本の企画を探していた編集者の同期生が声を掛けてくれました。あれよ、あれよという間に講座を修了して1カ月後には最初の著書である『笑う介護。』を出版することが決まっていました。

決して明るいテーマではない「介護や看病」についての本を書くということに、内外ともに抵抗がありました。そんな悩みを担当編集になった講座の同期に話している中で、「それでも、介護って結構笑っちゃうことがあるんだよね」と私が言ったことがあったそうです。それを聞き逃さなかった彼女が「ならば、そこに焦点を当ててみては!」と新たな切り口を見つけ出し、発行部数が5万部を超えた『笑う介護。』が誕生したのです。

『笑う介護。』というタイトルの本であっても、「笑えることだけ」を書いたわけではありません。「そのことは書きたくない!」と担当編集と揉めた、心療内科を渡り歩いたことや当時お付き合いしていた人と別れてしまったことなども書きました。ところが、そこを書くことにより、「介護で笑えること」がより際立っていくのです。

さらに、どちらかといえばツライことが多い「介護」と「笑い」をくっつけることは「タブーなのでは……」と「やっぱりタイトルが心配」と弱音を吐いたこともありました。が、「絶対、共感してくれる人がいるから!」と信じて疑わない担当編集の強い信念に半ばこちらが根負けする感じで、執筆は進んでいきました。

「書きたくないこと」が読者の心に響いた

出版後にいただいた読者からのお手紙にも「笑いながら、泣きました」と、さらけ出した部分への共感が非常に多いのです。そもそも卒業制作も含め「そのことは書きたくなかった」と躊躇していたことが人の心に響き、私と多くの読者を繋いでくれたのです。これはモノ書きになったという覚悟はもちろん、ブログなどでは書けなかっただろう「書きたくなかった」部分をプロの編集者に刺激され、さらけ出した結果だと思っています。

書く作業自体は一人ですることかもしれませんが、そこに辿り着くまでにはさまざまな人の思いに動かされ、それにより書かされてしまうことも少なくないと思います。それは自分が編集者をしていたときよりも、逆の立場となって、より強く感じるようになりました。

その後も3冊の著書を出版し、現在も雑誌などで介護エッセイの連載や取材記事を書かせていただいています。特に父の介護に関しては家族のことを赤裸々に語ることなので、ときには「書きたくないこと」もあります。しかし、私が「書くこと」を求めてくれる人と出会い、それにより多くの人と繋がっていける「書くこと」を、これからも私は続けていくのでしょう。

岡崎杏里さんのブログ「続・『笑う介護。』」

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