企業が消費者にメッセージを伝える際、その媒介となるメディア。その種類やそれぞれの影響力が劇的に変化する中で、従来型のメディアの捉え方、またそれを基軸にしたメディアプランニングでは、ターゲットに対して適切にメッセージが届けられない時代になってきている。
そもそも、メディアとは何か。広告やコミュニケーションビジネスに関わる人は、その意味をどう捉えるべきか。高広氏と、『MEDIA MAKERS』の著者で、数々のメディア立ち上げに携わってきた田端氏が議論した。
<登壇者>
LINE 執行役員 広告事業グループ長 田端信太郎氏
スケダチ 代表取締役 高広伯彦氏
コミュニケーション自体が新しいビジネスモデルを創造
──高広さんは、世界で1億ユーザーを超えた「LINE」をどのように見ていますか。
高広 メディア企業がコンテンツを制作するのが、従来型のビジネスモデルだとすると、最近のソーシャルメディアなどは、ユーザーがコンテンツをどんどんつくって、そのユーザー自身がメディアの新たなビジネスモデルを生み出している。LINEを見ていると、コミュニケーションそのものが新しいメディアビジネスを生み出す、そのきっかけを目の当たりにしている感じを受けます。しかも、それがグローバル規模になってきているのが、面白いですね。
田端 今、高広さんがおっしゃった話は、私たちも自覚している部分です。これまでは、広告があって、それが乗っかるビークルとしてのメディアがあって、そこから口コミのようなコミュニケーションが生まれる。広告とメディアが近くて、コミュニケーションはちょっと遠いところにあったのが、これまでの形。
でも、今はコミュニケーションそのものがメディアに寄ってきて、逆にメディアと広告は離れていっている。ターゲティング広告やアドエクスチェンジなどが登場する中で、一つひとつのメディアに対して広告が貼り付いていたり、広告とメディアでパッケージ化されていたものが、今はアンバンドリングされて、関係性がバラバラになってきた気がします。
──テクノロジーの進化がメディアを変えていると言います。その中でも、広告やコミュニケーションに関わる人たちは、どのような変化に注意すべきでしょうか。
高広 次々と新しい技術が世の中に出てきても、受け入れられる技術と、受け入れられない技術がある。人々の生活で受け入れられる技術を見極めて、そこでメディアビジネスやコミュニケーション、広告を考えるのが良いと思います。
でも、「新しいテクノロジー=すごい」みたいな感じで、ちょっと飛びつき過ぎる傾向が見受けられますよね。僕が今やろうとしている「インバウンドマーケティング」で使うのは、ブログやEメールや検索ツール。リッチメディアのテクノロジーは一切なくて、レガシーなものばかりです。新しいテクノロジーに飛びつき過ぎないことが、メディアとテクノロジーの関係を見極める上で、すごく重要な気がします。
田端 松尾芭蕉が「不易流行」という言葉を残していますが、今まさに、それがメディアの世界に合致すると思っています。一過性の流行としてどんどん流れて変わっていく部分もあるし、永遠に変わらないクラシックな部分もある。たとえば、授業中に女子学生たちが手紙を回したりするじゃないですか。そんなワクワク感とかドキドキ感や、手紙を開けたら先生の似顔絵が描いてあってクスっとするみたいな感覚は、大昔からあったと思う。技術や環境が変わった今は、手紙じゃなくてLINEを使うのかもしれないけど、求めているものは変わらないですよね。
──どうすれば情報リテラシーが身に付きますか。
田端 大切なのは、情報ソースにあたることですよね。よく記者は、企業や政府が発表したプレスリリースを起こして記事を書くじゃないですか。けれども、読む側も必ずオリジナルの資料を見にいくことが大事。それが「騙されない」という意味でのリテラシーにおいては、結構重要だと思うんです。そこで感じた、ちょっとした違和感を大切にすると良いと思います。
高広 よく「情報が玉石混淆とする中で」と表現されますけど、そもそも情報に玉と石の違いがあるわけではなく、玉か石かを見極めるのは自分です。これは良い情報、これは悪い情報、というラベルが付いているわけじゃない。それを決めるのは自分自身だということを理解しないことには、そもそもリテラシーなんて身に付かないと思います。
田端 もう一つ、発信している側の動機も大事ですね。たとえば求人広告だったら、職場の雰囲気を良く表現していて当たり前。その構図を見抜くためには、「誰がなぜそれを発信しているのか」を考えれば、その部分をどのように割り引いて見なくてはいけないのかということが、自ずと分かってくるはずです。また、発信する側になったら、自分たちの動機は見抜かれる可能性があることを前提にして、さらに一段上をいくアプローチをしていかなくてはいけない。
高広 広告からスタートする商品やサービスとの出会いというのは、意外と少ない気がします。最初の出会いの場は、店頭の棚、誰かの口コミ、インターネット上、あるいは検索結果で出てきた結果かもしれない。商品・サービスのイメージや情報は、色々なところで知られている可能性が高いという前提で、コミュニケーションやマーケティングの企画を考えることが、すごく重要だと思います。
とはいえ、そもそも今のネットって、高いリテラシーを必要としない。今使われているメディアテクノロジーは、誰でも使えるようになっている。だから、リテラシーが高いという前提条件を持つ思考回路自体にも注意すべきと思います。
── 炎上マーケティングは、今後も続くと思いますか。
田端 炎上マーケティングという言葉をよく聞きますが、定義が難しい。そもそも、火加減のコントロールができる炎上マーケティングって、あるんだろうか。仕事でやるなら、ちゃんとコントロールできなければいけないと思いますが、大抵は、全く燃えず、鳴かず飛ばずで、生米のまま食べられないものになるか、燃え過ぎて黒焦げになる。ちょうど良い火加減でできる炎上マーケティングって、そうないですよね。
高広 僕は、意図せず炎上してしまった人が、「これは炎上マーケティングです」って言い訳しているだけだと思っています。自分自身を正当化するためのキーワードとしてあるだけだから、そういう意味では、今後も続くのでしょう。無くなりはしないのでは。
(次ページヘ続く)
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