本屋の仕事のスタートラインを引き直す
廣田:出版で言えば、Kindleが出てきたり、広告で言えばグーグルが出てきたり、圧倒的にルールが変わってきているけれど、でも環境を変えたグーグルやアマゾンは自分たちがやっていることは、従来の出版や広告の本質を変えるものではないと僕は思うんです。
環境が変わっているからこそ、変わったこと、変わらない本質が見えるのではないでしょうか。本を取り巻く環境は激変していますが、内沼さんはその変化についていっているから、変わらないもの、本質が見えているのではないかと思います。
内沼:本という部分を広告、音楽、演劇と、いろんな言葉に置き換えて読んでくれた読者の方が多いと言いましたが、それは全てインターネット、あるいはインターネット的なものの登場で、一見激変したように見える業界。音楽そのもの、演劇そのものの良さが決してなくならないように、環境が変わっても本の価値に変わりがないのだと思います。
ただ、僕が懸念しているのは「変な変わり方をすると本質的な価値まで変わってしまう」ということなんです。時代の流れに逆行して、既存の業界の既存の仕組みを力ずくで無理やり残そうとすると、本を読む人自体がいなくなってしまうのではないか、と。
広告は誰かの目につく努力を続ければ、何かできるかもしれないけれど、本の場合は広告と違って能動的に手に取ってもらえないと、決して読まれることはないものです。なので、危機感を持っているのですが、だからこそ「本の未来は明るい」という前提で多くの人々を巻き込んでいきたいと考えています。
廣田:不思議なことに、人はバリューチェーンのバリューを守るべきなのに、チェーンだけに目が行き、チェーンばかりを守ろうとしてしまうところがあります。チェーンの部分が、その業界の中にいるとバリューに見えてしまうというか。
<後編へつづく>
内沼晋太郎 numabooks代表
1980年生まれ。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。一橋大学商学部商学科卒(ブランド論)。 卒業後、某外資系国際見本市主催会社に入社し、2ヵ月で退社。その後、千駄木「往来堂書店」のスタッフとして勤務する傍ら、2003年、本と人との出会いを提供するブックユニット「book pick orchestra」を設立。2006年末まで代表をつとめる。のちに自身のレーベルとして「numabooks」を設立し、現在に至る。2012年、東京・下北沢にビールが飲めて毎日イベントを開催する本屋「B&B」を博報堂ケトルと協業で開業。著書に『本の逆襲』(朝日出版社/2013)、『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版/2009)。
【「電通 廣田さんの対談」連載バックナンバー】
■takram design engineeringの田川欣哉さんに聞きに行く
・「自分で全部やってみたい人の仕事術」(前編)
・「自分で全部やってみたい人の仕事術」(後編)
■Sumallyの山本憲資さんに聞きに行く
・「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(前編)
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■内沼晋太郎さんに聞きに行く
・「マージナルな場に飛び出す人の仕事術」(前編)
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