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コラム

いいかげん、脱・広告宣言!

広告をしないクライアントを迎えよう!

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僕は広告会社にいながら、最近、広告らしい仕事をしていません。
業界では、もうずいぶん前から「脱・広告」ということがいわれています。

カンヌが「広告祭」の看板を下ろしたことも象徴的だったし、レイ・イナモトさんの「広告の未来は広告でない」という言葉は有名ですよね。
でも、広告会社にとっての「脱・広告」の重要性を、本当の意味で理解している人は、どれくらいいるでしょう?
実際に「広告をしていない企業」をクライアントに持つ広告マンなど、現状ではほとんどいないのではないでしょうか。

ここでいう「広告」とは、希少なメディア枠に何らかの表現を載せて発信することで、メッセージを届けようとする思想そのものです。

世の中には、そうした広告を必要としない商品やサービスがたくさんあります。
例えば、毎日使っている人もいるでしょう「Dropbox」や「Evernote」の広告を見たことがあるでしょうか?
宿泊予約の「Airbnb」や世界最大の旅サイト「トリップアドバイザー」など、今をときめくWebサービスのテレビCMも見たことないですよね。
他にも、特にプラットフォームビジネスやBtoB、スタートアップなどでは、広告を必要としない企業が星の数ほど存在しています。こうした企業に、広告会社のクライアントになってもらうにはどうしたらいいのでしょう。

僕は20年ほど前、銀行でコーポレートファイナンスをやっていました。
いわゆる企業向け融資業務というやつです。
当時の銀行ビジネスは、貸出金の利息収入で成り立っていました。
なので、僕はいつも資金需要を求めて担当企業を回っていました。
さらに、需要がなければ、無理にその用途をつくるということも仕事のひとつでした。

ところがその後、「M&Aアドバイザリー」という、企業の合併や買収を手がける部署に配属された時に、衝撃を受けました。
そこでは、なんの資産も持たずに、紙とペンだけでアイデアを提供し、フィーをいただくビジネスを展開していたのです。
そのため、借入の必要がない純預金企業から、ビジネスの構想だけを持ったスタートアップ企業まで、大小あらゆる企業をクライアント対象として見ていました。
そしてそこでは、クライアントと共にリスクを背負っていました。
利息収入こそが銀行ビジネスだと思い込んでいた、それまでの僕の常識は、一気に吹き飛んだのです。

広告のないところに僕らの未来がある

広告のないところに僕らの未来がある

同じことが、今の広告ビジネスにも当てはまります。

僕たちのバリューは、アイデアです。
メディアコミッションだけが、その対価ではないはずです。
広告をしない企業に対面することで、僕たちの仕事の可能性と活躍の場は飛躍的に広がります。

必要なのは、マインドセットです。
これまで広告に向けていたアイデアの出しどころを変えるのです。
企業活動における外界接点は、僕ら広告業界の人間が考えているよりも、はるかに多くあります。
WebサイトやSNSなどオンライン上のオウンドメディアだけでなく、ストアやパッケージ、配送やコールセンター、社員ひとりひとりの行動から購入後の顧客の態度まで、あらゆる外界接点はユーザーに体験を提供しています。
それぞれの外界接点で、ユーザー体験そのものが拡散するアイデアを内包させていくのです。

このコラムでは、グロースハッキング、コンテンツマーケティング、ウェアラブルデバイス開発、ゲーミフィケーション設計など、僕が現在直面している、「広告でない仕事」をテーマに取り上げていきます。

「脱・広告宣言」とは、広告をしているクライアントに広告をやめる提案をすることではありません。
広告を必要としない企業をも、僕たちのクライアントに迎えようという意思表明です。
逆説的ですが、そこにこそ広告の未来があります。

その結果、僕たちの仕事は世の中から見えないものになるかもしれません。
自分のやった仕事が、世の中みんなに見てもらえることを喜びとして、広告業界に入ってきた人も多いと思います。
でも、そんなことは知ったこっちゃない。
いいかげん、覚悟を決めることです。
まずは、自分自身に宣言することから始めましょう。

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京井良彦
電通 マーケティング・デザイン・センター プランニング・ディレクター
大手銀行でM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。
主に、グローバルブランドやITサービス、スタートアップ企業を担当し、
ソーシャルメディア・デジタル領域を中心とするエンゲージメント・プランニングや、
データサイエンスに基づくグロースハックを手がける。
カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルに毎年参加している。
著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)など。
東京都市大学非常勤講師。