これは、「ドラえもん」を読むと、よく分かるでしょう。
ドラえもんが四次元ポケットから取り出す道具には、すべて22世紀の最新テクノロジーが搭載されています。
でも、それらの道具は、エンターテインメントを提供するために取り出されるのではありません。
のび太の「困りごとを解決するため」に提供されるものです。
のび太のインサイトがあって、そこにソリューションとしてのテクノロジーを提供するから、「Wow」が生まれるわけです。
数年前、AR(拡張現実)を使った施策が流行った時期がありました。
多くの企業がこぞってプロモーションに採用しましたが、あまりに未来的な体験のためか、エンターテインメント的な活用が多かったように思います。
しかしそんな中でも、このテクノロジーがもたらす本質的な価値を冷静に見極めて、ユーザーへのソリューション提供として活用する企業もありました。
例えば、家具販売のIKEAは、AR(拡張現実)を商品カタログとして活用したことで有名です。
デバイス上のアプリ画面で自分の部屋を写し、そこにカタログの椅子や机などの家具を配置して、購入後のイメージを確認できるというものです。
僕もこれを体験したとき、「これ便利!これからカタログの概念が変わるかも」と、かなりの衝撃を受けたことを覚えています。
こういったものこそが「Wow体験」だと思うのです。
こう考えると、テクノロジーそのものが今までになかった最新のものかどうかは、それほど大切ではありませんよね。
そのテクノロジーを「何に対するソリューションとして活用するか」というアイデアこそが重要になってくるはずです。
GoProなども、これまでにあったカメラの技術ですが、どう使うかというアイデアが新しい価値を提供しているわけです。
僕は少し前、常に最新のテクノロジーを求めるクライアントに、QRコードを使った施策を提案したことがあります。
プレゼンの際には「QRコード」というだけで、「古くさい提案をしてきてバカにするな」という空気が流れました。
しかしその時も、こうした説明をすることで、すんなりと理解してもらうことができました。
とにかく、ここ数年のテクノロジーの進化があまりにも凄まじいため、それを追いかける広告業界のほうで、どう活用するかという判断に混乱が起きているように感じます。
まずはユーザーのインサイトありき。
これは普遍です。
そうでないと、「Wow」は生まれない。
どれだけ新しいテクノロジーが出てこようと、ここだけは間違わないようにしたいものです。
京井良彦
電通 マーケティング・デザイン・センター プランニング・ディレクター
大手銀行でM&Aアドバイザーを経て、2001年電通入社。主に、グローバルブランドやITサービス、スタートアップ企業を担当し、ソーシャルメディア・デジタル領域を中心とするエンゲージメント・プランニングや、データサイエンスに基づくグロースハックを手がける。カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルに毎年参加している。著書に『ロングエンゲージメント』(あさ出版)、『つなげる広告』(アスキー新書)など。東京都市大学非常勤講師。
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