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企業の中に眠る、世界で通用する鉄板「ネタ」を見つけよう。――博報堂・須田和博さん

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インタビューはカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル開催期間中に現地にて行った。

インタビューはカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル開催期間中に現地にて行った。

――須田さんがカンヌに参加する目的は。

僕がカンヌに来るのは、今年で4回目。僕がカンヌに参加するのは、まとまった「考える時間」を作ることが目的です。ここには、考えるモチーフがたくさんあります。セミナーで聞く話や、受賞作の映像から浴びるように情報やキーワードが降ってきます。それを浴びると、頭が勝手に働き始めて、それまでモヤモヤと考えていたことが、具体的に形になっていくのです。

カンヌに限らず、世界の広告祭はビーチリゾートで開催されますが、やはりビーチリゾートでないとダメなだと思います。忙しい日常を断ち切り、落ち着いて考えることができるカンヌは、自分にとって重要な場所です。しかも、カンヌに集まってくるのは「広告のことを考えたい人」ばかり。自分と同じような問題意識を持つ人と会場近くのカフェで延々と広告について論じることも、ここに来る重要な目的です。

僕は、初めてカンヌに来た時にブログを書き始めました。当時、書いた記事を読み返してみると、僕が書いた「使ってもらえる広告 『見てもらえない時代』の効くコミュニケーション」の元原稿と言えるもの。カンヌは、頭の中でずっと熟成しているものをアウトプットできるいい機会なんです。

――須田さんは、受賞作品をどんな風に見ているのですか。

受賞作品を見ていると、例えばブラジルなど日本とは遠く離れた、文化の全く異なる国の作品でもピンとくるものがあります。そういう作品を見ながら、ブラジルの人が僕の広告を見ても「わかる、わかる」「面白い!」と言ってもらえるにはどうしたらいいだろうかと考えています。僕がピンときた作品とそうでない作品の違いは何か、をずっと考えています。

文化の異なる国の人が見ても「わかる、わかる」「面白い!」と思われる共通のポイント、それは「最古と最新」(須田さんが書いた、記事はこちら)かなと思っています。この考え方は、発想するためのメソッドではなくて、あくまでヒットした広告を見ると、必ずそうなっているという、分析のメソッドなのですが。

いま、思うとこの考え方のもとになっているのは、大貫卓也さんに教えていただいたことがベースになっているなと思います。大貫さんは、よく「新人のダメなアイデアっていいよね」と言っていました。新人が考えるダメなアイデアは、誰でも考えつきそうなものだからこそ、誰でも理解することができる。

そして、「自分は誰にでも理解できる、ある種凡庸なアイデアを、誰にもできない仕上げ方で定着させる。だから誰にでもわかるし、誰も見たことがないものになる」といったことを、話されていました。僕が言う「最古と最新」も、それと同じことだと思います。僕の広告に対する考え方を振り返って分析すると、大貫さんに教えていただいたことに、ものすごく影響を受けています。

――カンヌで受賞している作品は業態が分かりやすい、あるいはプロダクトやサービスが少なく、プロダクトブランドとコーポレートブランドが直結するような企業のものが多いように思います。日本には、複数の事業を傘下に抱える、複合型の事業展開をする企業も多いと思いますが、こうした企業がカンヌの作品に見られるようなわかりやすい広告を作るには、どうしたらよいでしょう。

その企業にとって、世界で通用する「ネタ」は何なのか、それを探せばいいと思います。特に、複合型の事業展開をする企業は逆の視点から見れば、ネタの宝庫とも言えます。プロダクトブランドの壁を取り払い、ネタ単位で考える。そうした発想で臨むと、面白いものがつくれるんじゃないかなと思います。特に、わかりやすさが必要とされる世界を相手に広告をする時は、“単品ネタ”でいく方がいいと思いますよ。

今年、チタニウム部門でグランプリを獲得した。電通の菅野薫さんたちの作品「Sound of Honda/Ayrton Senna 1989」も、本田技研工業という企業の中に眠っていた強いネタを掘り起こしたところが最強だと思います。アイルトン・セナの走行履歴という鉄板のネタを発掘しつつ、さらにアウトプットでは最新のテクノロジーを活用し、誰も見たことがないような表現をつくっている。これも「最古と最新」ですよね。企業の中には、お醤油の製造方法であるとか、F1にチャレンジした時の伝説であるとか…その会社ならではのネタがいろいろと眠っていると思います。そのネタを最新の表現を使ってアウトプットするとよいのではないでしょうか。

――須田さんは「ライスコード」(田舎館村)で、ゴールド2点、シルバー1点、ブロンズ2点を受賞しました。

受賞者としてカンヌのステージに立つと、モチベーションは高まります。ですが、アワードで一番モチベーションが上がるのは、すごく不遜な言い方になりますが、ギリギリで取れなかった側にいることだと思います。

「悔しさ」には未来に向けての一番の原動力になる。僕らが受賞するのを見て悔しいと思っている人たちが次の世代を担っていく…。カンヌの一番、大切な役割はそこにあると思います。