メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×
コラム

北川一成の「人間力」と「造形力」

いかにクライアントが抱える問題の本質を聞き出せるか

share

【前回のコラム】「アイデアは尽きるまで出す。数では負けないという心意気が必要」はこちら

デザインの仕事を「無から有を生み出す」と誤解している人がいます。経験を重ねると誰もが気づくことだとは思いますが、デザインの答えは、クライアントの中にあるものです。自分の中から答えを出そうとすれば空振りをしてしまいます。造形力は、クライアント(経営者)と臨機応変に向き合える人間力があってこそ発揮できるものだと思います。しかしながら、ロジックだけに頼ったデザインでは面白みがありません。人間だからこその直感力(感性)もデザインには重要です。ロジックと感性、どちらも兼ね備えてこそ、プロと言えるのではないでしょうか。

「ブランディングを見直したい」とか「社名を変えるからロゴをデザインして欲しい」という依頼の場合、クライアント(経営者)は何かしら困っていることを抱えておられます。本音を聞かせていただくことは、核心を突いた提案をするためにも必要です。しかし、クライアント(経営者)は自分たちのネガティブな情報は話したがりません。信頼していない相手に本音は語らないものです。

相手から信頼されるためにも、私は自分から心を開き、クライアント(経営者)にとって重要なことであれば苦言を呈するようなことも真摯にお伝えするようにしています。外部の人間だからこそ気づけることもあるはずです。また、造形についての説明も、専門用語を並べて説明しないように気をつけています。クライアント(経営者)と対等にディスカッションできるような関係性を自ら心がけて作るようにしています。

話を聞くことと同時に、自分がデザインしたものを言葉で伝える能力も大切です。プレゼンが通る=共感されたということ。クライアントの情報を知り得ているからこそ共感されるデザインが作れるのです。かつて私はクライアントからデザインの意図を説明してほしいと言われたとき「見てわからないものは、聞いてもわからない」と説明しなかったことがあります。当然ですがクライアントは怒り「帰れ!」と追い出されました。25年も経てば人は変わるものです。人の話を聞く力も自分の話を聞いてもらう力も、デザイナーにとって必要な技量です。

GRAPHに社名変更した当時は、毎日50社ほど、飛び込み営業をしていました。当然ですが、勝手にオフィスにおしかけた見ず知らずの私の話を積極的に聞いてくれる人はいません。来る日も来る日も営業していると、夕方の時間帯がチャンスであることに気づきました。宅配便の集荷で「ちょっと待ってください」と慌てて準備をしているとき、宅配業者の人に話し掛けて時間稼ぎをしてあげるのです。そして、無事集荷が終わった後「ところであなたは誰ですか?」となり、自己紹介をするんです。

時間稼ぎをしてもらったから、むげには追い返せない。そうやって、話を聞いてもらうチャンスを作っていました。飛び込み営業は決して楽な仕事ではなかったけど、人に話を聞いてもらうことの難しさ、聞いてもらうコツなどを覚えることができました。それは、造形力とともに、今の自分の血肉となっていることは確かです。

(つづく)


「北川一成さん」に関連する記事はこちら
「GRAPH」に関連する記事はこちら


北川一成
1965年兵庫県加西市生まれ。 87年筑波大学卒業。89年GRAPH(旧:北川紙器印刷株式会社)入社。
“捨てられない印刷物”を目指す技術の追求と、経営者とデザイナー双方の視点に立った
“経営資源としてのデザインの在り方”の提案により、地域の中小企業から海外の著名高級ブランドまで多くのクライアントから支持を得る。
著作に『変わる価値』(発行:ワークスコーポレーション)がある。

「人間力」と「造形力」を高める、デザインの学校「北川一成デザイン専門クラス」

2014年12月13日(土)開講
講義時間 13:00 – 17:00
定員 50名
講義回数 8日間
開催場所 東京・表参道