デジタルPRだれもやらない問題と、バウハウスの間

インタラクティブ広告の表現は、冬の時代だ。

 

東京インタラクティブアドアワード」という、インタラクティブ広告を代表する賞がなくなり、その役目はACCインタラクティブ部門に移譲された。

 

ところが、おや?

気がつくと、応募作品数が、半分に減っている。
平均400ほどの応募が、200ほどに落ちているではないか。

 

経産省によると、マス広告の予算が減り、インターネット広告費のみが増えている。

(※これ一ヶ月間の推移ですが、毎月だいたいこんな感じです)

 

2014年の日本の広告費をみると、インターネット広告費の増えた理由は、「スマートフォン・動画広告・新しいアドテクノロジー」とある。

つまり、なにか新しい企みがあるデジタルキャンペーンの数自体は減ってきて、
YouTubeとかSEM、ネットワーク広告などのアドテクに割かれていて、新しいチャレンジをして世の中を驚かせる、という気概がなくなってきちゃったことをあらわしている。

 

業態が洗練されてきちゃった、ということですね。

 

秩序と効率化は、怠惰を生み出す。
媒体は、レギュレーションが「動画1.8メガ以内」とか「静止画」とか決まっている。
デジタルは「なんでもアリ」がウリでしょ? もったいないことだと思う。

ぼくは、あの「ジャマな動く看板」がイヤでイヤで、以前、東京インタラクティブアドアワードで、「バナー部門はもうやめましょうよ、これからデジタルキャンペーンとモバイルっしょ」「いいぞいいぞ!」などと喝采していたのが、たった1〜2年で、真逆の事態が忍び寄っていた、というわけだ。

 

なぜ、こんなに衰退しちゃうのか?

 

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理由の1つは「デジタルプロモーションは、誰でもできるものではなくなった」のだ。

昔は、誤解を恐れず言えば、
Flashでバリバリ動く、かっこいいサイトをつくればよかった。

おそらく全世界初のオールFlashサイト、EYE4U。今見るとメチャクチャダサいが、1999年当時、全米が震えた。

 

この文化は、スマホ、とくにiPhoneの台頭とともに衰退した。

そもそもFlashはiPhone上では動作しない。
iPhone上で動作するのは、HTML5、WebGL(最新のOS)、アプリならObjective-C、実際に誰でも手を動かしやすいのはOpenFrameworksやUnityなどだ。最近のキャンペーンでは、MaxやArduinoなどの知識もいる。

いずれにせよ、PCのブラウザと、スマホのブラウザでは作り変えなければならなくなったので、手間とかかる技術レベルは倍に増えた。
Webデザイナーでもがんばって覚えられる範疇に入っていたスクリプティングが、どわわわーと増えてきてしまって、「もう全部は無理っすよ先輩」状態になっていった。

 

これにより、広告の「デジタル」は、Flashバリバリスペシャルサイト文化から、
デジタルPR動画広告に分化した。

デジタルPRとは、ざっくり言うとAdGangっぽいものに、テクノロジーが乗ったもの。
「増上寺の前でみんながスマホをシャカシャカしたら、東京タワーの照明が連動してきゃりーぱみゅぱみゅが歌って踊って何だかすげええーー!!!」的「こんなことできるのね最近は」があるプロモーション。
PR手法のひとつとしてのデジタルだ。

もうひとつは、動画広告。
YouTubeは「マーケティング手法としてWeb動画をもっと使おう」という路線をつくるために、「HHH戦略」なんかを説きながら、いかに企業が戦略的にYouTubeムービーに資本を投下してくれるか、などということをやっている。

あるとき、クライアントが口を揃えて「HUBムービーをつくれ」と言い出した。
「LOVEムービー」と聞きまちがえて「うんうん、やっぱり愛が人々の心を動かしますものね」などと答えて、微妙に会話が成立してしまったことがある。
あとで「中村さんラブじゃなくてハブっすよ」と教えてもらって、本当によかった。

某有名アートディレクターが、「御社」と「弊社」をずっと取り違えていて、クライアントの前で「弊社は本当にすばらしいですね。それに比べて御社ときたら、本当にどうしようもない会社ですよ」と言ってしまった、という逸話を思い出す。

 

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話を元に戻そう。

いい感じのムービーをつくるのは、お金がかかる。
また、デジタルPRは、知見と技術が必要な世界になり、従事できる人が少なくなってしまった。

また、デジタルは、「テキトーにやってみる」予算枠のものではなくなった。
プロモーション予算には「6:3:1の法則」というものがある。
「6」は、メイン商品を売るための実弾となるTV-CM、「3」はPRやキャンペーン、残りの「1」で、けたぐりのような全く新しいコンテンツや、未知なものをやってみる、というものだ。(※7:2:1という人も)
Webはジャンルが成熟して、「1」じゃなくなってしまった。

 

これは、ヒジョーにまずい。

 

日本は、数年前は世界トップレベルの技術力だったのだが、ここ数年で目立たない存在になってしまった。実はその背後には、上記のパラダイムシフトが起きている。もう本当は「デジタル広告強いジャパン」はゼロリセットされていると思ったほうがいい。

もっと、若い人の中にスペシャリストが増えて、好き放題に考えて、どんどんつくって世の中に出していくような場じゃないと、デジタルインフラや文化の成長速度についていけず、あっという間に、動画広告(=スケールダウンしたCM)と静止画バナー(=ちっちゃなマス広告)だけのものになってしまう。

そもそも広告の歴史なんて、
1800年ごろにイギリスで整備された、まだまだ歴史の浅いものだ。
そのなかで、デジタル広告の歴史なんてメチャクチャ浅い。
いまのデジタル広告では、今たまたまアレとコレが流行っていても、何が流行っているかすら、日進月歩で様変わりしている。

つねに変わらず必要なのは、ベースのプログラミングスキル。そして、おもしろいことを考えるだけじゃなく、全部自分たちでやりきる力だ。
CMやグラフィックは、制作の細かいフローがすべて出来上がっているが、デジタルにはそれがない。つくりかたをつくらなければならない。

これはめんどくさいです。失敗もします。
でも、いやそれやらなくちゃ、どんどんつまらなくなるでしょこの業界。

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この状況を打破するために、「BAPA」という学校をはじめた。
PARTYと、インタラクティブ業界の雄・バスキュールがはじめた学校だ。

BAPAは、この業界のトキワ荘、カッチョよくいえばバウハウスみたいなことがやりたくて運営している。
いやバウハウスがなんだかよくわかってないで書いているが。
プログラミングのイロハを教える学校、広告のイロハを教える学校はたくさんある。
ビジネスとしての学校ではなく、未来の人材をつくって業界をワクワクする人材を輩出できるか、ということにフォーカスしてつくっている。

 

ということで、宣伝会議さんとは競合ではありません。

 

第1期を経て、第2期になり、これがかなりヤバい

ことになってきている。

 

まず、講師がヤバい。

第1期もオーバースペックと言われるほどのすばらしい講師陣を用意したが、
今期は、カイブツ木谷友亮さん、電通菅野薫さん、tha中村勇吾さん、辻川幸一郎監督、ライゾマティクス石橋素さん、というすごいラインナップのゲスト講師をお迎えできた。
(ぼくなぞはどうでもいいが)

講義は、極力実践型にするため、講義を聞いていても充分に聴き応えがあるが、泣いて講義は最低限にし、ほとんどの時間をワークショップ形式にしている。
生徒は毎回プレゼンをデザイン・実装のカタチで出し、講師がアドバイスする。

 

そして、生徒がヤバい。

メーカーの技術部、広告代理店のアートディレクター/デジタルプランナー、プロダクションのエース級の人材、ギーク女優、モチベーションの高い大学生からなっているが、生徒全員、発想力、技術力ともにすばらしい。
もう、ぼくなどは引退したほうがいいんじゃないかとさえ思ってしまう。

講師と生徒が繰り広げるやりとりは、毎回目を離せないくらいにエキサイティングだ。

 

卒業制作がヤバい。

BAPAの卒業制作は、「実際につくってみんなに見てもらう」というルールがある。
自分でもやってみたくなるような課題を用意しよう、ということで、
「アイドルのライブを、テクノロジーでなんとかしてください」というテーマにした。

アーティストのCDがまったく売れなくなってライブに価値が集まる時代、どのようにライブならではの価値をつくることができるか?アーティストのリアルタイムの心拍数がステージ上に共有され、AR、全身LED、曲に呼応するリストバンド、などというライブ×テクノロジーが百花繚乱する時代に、BAPAは新しいライブエンタテイメントを生み出せることができるだろうか?

pixivさんに、もうすでにネクストブレイク必至、の声名高い「虹のコンキスタドール」をお借りし、神をも恐れないような提案を生徒にしてもらう。提案したものは実際につくって、ヒカリエホールで実際にライブを行う、というものだ。

きっと、本番のライブは、全9チームによる、今まで見たことのないようなしくみがアイドルと組み合わさった、ハラハラドキドキするものになるだろう。
ぼくら運営側は、失敗してライブに穴を開けるチームがいないか、ハラハラドキドキである。

 

そして、ここだけの話、予算がヤバい。
当たり前だ。生徒の入学費は12万円だが、120万円くらいの価値を残そうとしてやっているのである。
「ヒカリエホールでイベントする」ということがどれだけ大それたことか?
見積もりを見て思い知った。
詳しくは言えないが、バスキュール・朴社長の目玉は飛び出た。
ぼくも36歳になって、ひさしぶりに「ホゲー!!」と言った。
こんな「ホゲー」何年ぶりかしら、というくらいの鮮やかな「ホゲー」が出た。

 

もうこれは「何のためにやっているんだ」というくらい、赤字である。
大事なことなので、もう一度言おう。赤字である。

しかし、PARTYやバスキュール、周囲をつき動かすような燃えさかる何かが、BAPAにはある。
燃えているのは火の車だけではない、はずだ。

 

もし興味がおありな方は、ぜひ7月末のライブを楽しみにチェキラしてほしい。
さらに興味がおありな企業は、ぜひスポンサーしてほしい。

 

きっとそこにインタラクティブのバウハウスがあると信じて。

いやバウハウスがなんだかよくわかってないが。

 


【最近の中村洋基】

TOKYO FM「澤本・権八のすぐに終わりますから。」毎週ゲストとして中村、出演中!アドタイとも無軌道にコラボしています!

●中目黒に

「TINTO COFFEE STAND」

というコーヒー屋台はじめました。

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中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)
中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

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