世界一知的でグラマラスな、クリエーティブの教養コラム。古川裕也氏、初の著作
『すべての仕事はクリエイティブディレクションである。』(宣伝会議刊)を記念し、前回好評だったコラム「脳のなかの金魚」が全6回で復活。これまで出会ったさまざまな名作映画、音楽、小説を手がかりに、広告クリエーティブの仕組みや考え方をつづっていきます。
A「麻薬中毒患者の幻覚のようなこの絵を見て、みんなり笑わずにはいられなかった。絵の印象を端的に言えば、この画家は妄想に打ち震えながら絵を描く狂気の画家だ」B「昔からよくあるうまくつくられたニセモノ」C「コンサート開始15分ほどで、観客の私語が聞こえはじめ、床を踏み鳴らすような音がかすかに聞こえてきた。それはやがて演奏よりもはるかに大きな音となった。そのうち、その騒音に、つまり床を踏み鳴らす音と演奏とに耐えきれなくなった多くの人たちが、不快感を隠すこともなく出て行った」D「戦力で国を防衛するという、自衛隊の宣伝映画のようなものだ」E「展覧会では、この絵の前で、その稚拙さを涙を流すほど大笑いしようとする人々の行列ができた」F「なんだ、こんなの単なる印象じゃないか」
なかなか強烈な罵詈雑言が並んでいる。
それぞれ正体を明かすと、
Aは、フランスの美術雑誌『アルティスト』(L’artist)誌1874年5月1日号に掲載されたセザンヌの『モデルヌ・オランピア』に対して書かれた批評。この絵は、記念すべき第1回印象派展に出品されたが、セザンヌはこの頃ほぼ無名の画家だった。
Bは、1965年、『ラバー・ソウル』発売後、初めての全米ツアーを終えたビートルズに対するアメリカでの批評の一部。百万歩譲って「ラヴ・ミー・ドゥ」や「プリーズ・プリーズ・ミー」のような初期ヒット・シングルならともかく、『ラバー・ソウル』に至っても、こんな理解だったのだ。ちなみに収録曲は、「ノーウェア・マン」「ノルウェーの森」「イン・マイ・ライフ」「ミッシェル」など。『ラバー・ソウル』は6枚目のアルバム。明らかにシングルの集成ではなく、「アルバム」(もはや懐かしい名詞だけれど)と呼ぶべき状態に到達している。
この批評が掲載されたのはニューヨーク・タイムズだが、同紙はこの2年後に、手のひらを返すように、5ページにわたる「ビートルズ大特集」を組んで、ベタ褒めしている。ちなみに、ビートルズに関するこの種の「悪口→手のひら返し」は同時期、他にもたくさんあって、「ただの10代の若者たちのアイドルにすぎない。時間と共に消え去るだろう」→「ビートルズこそホンモノ」なんていうのもあったらしい。
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古川 裕也(電通 CDC局長 / エクゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)
古川 裕也(電通 CDC局長 / エクゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)
古川裕也(ふるかわ・ゆうや)電通 コミュニケーション・デザイン・センター局長、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、カンヌライオンズ28回、D&AD、One Show、アドフェスト・グランプリ、広告電通賞(テレビ、ベストキャンペーン賞)、ACCグランプリ、ギャラクシー賞グランプリ、メディア芸術祭など受賞多数。カンヌライオンズ、D&AD、クリオなど、国内外の審査員・講演多数。2013年カンヌライオンズ チタニウム・アンド・インテグレーテッド部門の審査員を務めた。
主な仕事:九州新幹線全線開業「祝!九州」。中央酪農会議「牛乳に相談だ」。JCB「買い物は世界を救う」。リクルート「すべての人生がすばらしい」など。
古川 裕也(電通 CDC局長 / エクゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)
古川裕也(ふるかわ・ゆうや)電通 コミュニケーション・デザイン・センター局長、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、カンヌライオンズ28回、D&AD、One Show、アドフェスト・グランプリ、広告電通賞(テレビ、ベストキャンペーン賞)、ACCグランプリ、ギャラクシー賞グランプリ、メディア芸術祭など受賞多数。カンヌライオンズ、D&AD、クリオなど、国内外の審査員・講演多数。2013年カンヌライオンズ チタニウム・アンド・インテグレーテッド部門の審査員を務めた。
主な仕事:九州新幹線全線開業「祝!九州」。中央酪農会議「牛乳に相談だ」。JCB「買い物は世界を救う」。リクルート「すべての人生がすばらしい」など。
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