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今年夏。ザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンの伝記映画が日本でも公開された。
封切り時、見損なっていた。仕事が立て込んでいて。(このような理由のこのような振る舞いが人間を確実に劣化させる)。
羽田―シャルル・ド・ゴール間の機内で、往路復路1回ずつ見た。あのモニターで見るのはいかがなものかというのと、12時間のうち9時間は眠っているので、基本、飛行機では映画は見ないのだけれど、今回だけは、我慢できなかったのだ。
実は少し泣いた。飛行機の中で。死ぬほど恥ずかしい。
タイトルは、“Love&Mercy”。キャストだけひと工夫施してあって、1960年代のブライアン・ウィルソンを演じるのが、ポール・ダノ(すごく似ている)。80年代をジョン・キューザック(まったく似ていない。そこは捨てて、独特の立ち居振る舞いを表現する能力でキャスティングされている)という風に、ひとりの役に2人のアクターをあてがっている。
簡単に説明しておくと、60年代、『サーフィン・U.S.A.』などのビッグ・ヒットによって絶頂期にあったザ・ビーチ・ボーイズのすべてのクリエーティブ・パートを担っていたブライアン・ウィルソンが、様々な理由により内面を病んでいき、80年代後半にようやくある種のハピネスを回復するまでの、ほぼ100%自伝的な映画だ。
今では誰もが認める圧倒的傑作『ペット・サウンズ』が、まったく売れず、レコード会社、バンドメンバーなど周囲の人たちすべてが不満を抱いたという状況が、彼を精神的に追い込んだ原因のひとつになっている。メンバーの不満の理由には、「全部あいつひとりで決めてるじゃないか」というのも含まれていた。実際その通りで、そのことによって『ペット・サウンズ』は傑作足り得ているのだけれど。
メンバーのひとりは、「なんだよ、海もクルマも出てこないなんて」と言ったという。彼らにしてみれば、今まで通りのサーフィン・サウンドで普通にヒットすればそれでよかったのだ。“音楽的冒険”なんて余計なことしなくたって。
すべてのシーンが、痛切な映画である。
その意味において、特別な映画である。
天才の定義は、僕の知る限りまだ確定していない。この映画では、ブライアン・ウィルソンを天才と呼ぶ現象的根拠として、「音楽があふれるように湧いてきて、その処置の仕方がわからない」様子が描かれている。この仮初めの定義らしきものは、明らかにモーツァルトをリフェランスしている。逆から言えば、音楽の領域では、この現象を持つほんとの天才は、このふたりしか存在しなかったのかもしれない。
「神から与えられるものが多すぎて情報処理ができない」というのは、うんうん言いながらこんなコラムを書いている最中の人間からすれば、憎悪に近い羨望を感じてしまうが、天才本人にしてみればおそらく羨まれるべき状態ではないのだろう。現象を受け止めるだけの精神的キャパシティーのようなものが悲鳴をあげることになるから。モーツァルトの場合は、伝記によると、悪口、セックス、行儀の悪さ等で、てきとうに才能の過剰を発散していたと思われる。彼は決してハッピーな死に方ではなかったけれど。
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