正常と異常の境目はどこにあるのか?
権八:『友だちのパパが好き』という題名からわかる通り、そういう映画ですね。
澤本:また吹越満さんがパパで。
権八:女の子同士は、親友というか友達同士なんですけど。
澤本:大天才・岸井ゆきのさんが娘さんをやっていて。本当にこの子はうまいよね。
権八:上手ですね。
澤本:僕、最初に山内さんの舞台を見に行って、この人があまりにうますぎて怖かったもん。最近、SICKSというテレ東のコント番組にも出ていて面白いし。この映画の中ではリアリティがありながらもちゃんと面白い演技をするから、よかったですよね。
権八:そして、何と言ってもこの吹越さんに向かって、どんどんグイグイ行くメガネの美少女、安藤輪子さん。この子もすごかったですね。
澤本:この子はオーディションですか?
山内:そうです。最初脚本を書いていて、安藤さん演じるマヤちゃんの配役がまだ決まってなかったので途中で書けなくなって。それで、4分の1ぐらいを書いたところでオーディションをして彼女に決めたら、後は書けるようになりました。
権八:ある種、異常な設定といえば異常な。まぁAVではあるかもしれないですけど(笑)。友達のお父さんが好きでグイグイそこにね。純愛って言ってしまえばそうかもしれないけど。一方で、娘役の岸井さんが普通に若者どうしの恋愛もしていて。
山内:娘は普通ですよね。すごく。
権八:不思議なのはグイグイ中年の50代のくたびれた男にいく純愛と、若者同士の普通の恋愛がときどき対比的に描かれていて。どっちが正常で、どっちが異常か、よくわからなくなってくるというか。結局、みんな純愛でみんな異常にも思えてくる。すごいですね。そういう恐ろしいところにいくというか、不思議な感覚になりますよね。
中村:監督的にもそういう部分を描きたいのが元で、ということだったんですか?
山内:描きたいというのはなかったんですけど、吹越さんや岸井さん、石橋けいさん、そのへんが僕の演劇で出てくれた人達で、その人達で家族の崩壊する話を書きたいと思って。だから、さっきみたいに書きながら考えていったら、こういう風になっていきました。普通の家庭が離婚しかかっている。普通というのかわからないけれど。
中村:普通に離婚しかかっている。
山内:夫は愛人もいたりして。でも、そこにみんな疲れたり、くたびれてる感じなんですよ。娘は普通に彼氏もいて、そこに異常な、純粋な女の子がそこに介入してくるという。かき乱す人をトリックスターって言いますよね。前作の『ミツコ感覚』の兄弟もトリックスターだと思うんですけど、そういう普通のところに介入して、みんながにっちもさっちもいかなくなって影響を受けて。そういう構造です。
権八:どのぐらいネタばらししていいのかわからないけど、要するに家庭が崩壊して、やがて離婚という話になるわけじゃないですか。そのことを娘に言うシーンで、ビールで乾杯しますよね。あのシーンが好きです。いいですよね。
山内:僕も好きです。
権八:「それぞれの旅立ちに乾杯」みたいなベタなことを言ったりして。家族がバラバラになるって重たいことじゃないですか。矛盾をはらんでるけど、何か明るくて、ビールで乾杯みたいな。
山内:そうそう。乾杯する前に「離婚するんだ」って娘に言うんですよ。「薄々はわかってたろ?」と聞くと、娘が「いやちょっとわからなかった」と。たぶん本当にわかってなかった。あまり興味ないからわからなかったのかもしれないけど。僕は離婚したことないんですよ。権八さんはあるんでしたっけ?
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