メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×
コラム

澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所

山内監督の最新作『友だちのパパが好き』はどんな映画?(ゲスト:山内ケンジさん)【後編】

share

「テラスハウス」のリアリティには敵わない?

澤本:『ジャッジ!』のときは後から一生懸命、つじつまを合わせようとして。でも、そういう風にやっていたら時間がかかるから、プロットを書けと言われて。プロットを書くのは1本全部書くよりは時間がかかるんじゃないかなと。

権八:プロットを書くだけでそんなに時間がかかるんだ?プロットなしで書くのは、どうなっていくかわからない楽しさがあるんですか? キャラクターをつくって、あとはそのキャラクターに芝居させるというか。

山内:プロットを書いてから書く方法もやったことがあるんですけど、それに即して書くので、その場でのセリフのうねりみたいなものは置き去りにして、とにかくプロット通りに進めていかなくてはならなくなるわけですよ。そうすると、ダイアログになってるのにあらすじみたいな。台本なのに、あらすじを細かくしただけみたいなものになっちゃうのがよくない。テレビドラマがあまり面白くないのは、案外そうなってるからだと思う。

権八:はい。

山内:その瞬間瞬間の会話や、起きてることがどれだけ面白いかというほうが大事なので。だから、この先どうなるかよりも今が大事みたいな。

権八:今いいこと言ったみたいなドヤ顔しませんでしたか(笑)。

山内:いやいや。今が大事みたいなことでずっと書いていって、でも半分以上そうなっていると、こうすると面白いなというのが見えてくるんですよ。

権八:ストーリーのうねりも見えてくると。

山内:だから半分ぐらいが一番苦しいですよね。最初は面白いことを書いてるからいいけど、だんだん苦しくなってくるんですよ。で、半分から3分の2ぐらいまでの間に霞が晴れてくる感じ。見えてくるわけ。だけど、見えてこなかったりして。見えるまでが一番苦しい。

権八:細かい話で、『ミツコ感覚』はそうでもないんですが、『友だちのパパが好き』では、誰かが何かを言ったときにみんなすぐに返事しないじゃないですか。何か言うと、必ず「えっ?」と、一回止めますよね。特に今回の『友だちのパパが好き』は娘の会話などで。

山内:岸井(ゆきの)さんね。

権八:岸井さんが相手が何か言ったことに対して、いちいち「えっ?」と、もう1回言わせるみたいな。そのパターン今回多いなって。

山内:あぁ、多かったですかね。でも、ほとんど台本通りなんですけどね。

権八:山内さんは、お芝居でももう1回聞き返すとか、ちょっとつっかえて言い直すみたいな場面が多いですよね。

山内:なるべく、その場でしゃべっているように、セリフを覚えてるんじゃなくて、その場でしゃべって、生まれてるようにつくっていきたいというのが目的なんです。ただ、最近僕は「テラスハウス」を見たんです。初めてちゃんと見たんだけど、見てます?

澤本:映画ですか? テレビですか?

山内:テレビのやつ。

権八:僕は地上波でわりと初期からワーッと盛り上がっていったときはずっと見てました。あれをご覧になってどうだったんですか?

山内:これには敵わないと思いました。どんなにリアルに自然にと言っても、本当にその場でしゃべってるわけじゃないですか。まぁ変なのは、彼らは準備を見てるわけですよ。つまり、ここにカメラ置きますと。ライティングもしてるかもしれない。早い話、用意スタートがあるのにそれを意識からなくして、その場でしゃべってるわけでしょ。だから、本当の本当じゃないと思うけど、極めて本当に・・・なんて言うのかな。慣れてるのかよくわからないけど、僕だったらあんなにカメラを忘れて人としゃべれるかなと思ったりするけど、極めてあれが本当ですよね。

権八:そうですね。

山内:台本じゃない。それは昔ではありえないことで、デジタルカメラが簡単にノーライトでも音もいっぺんに撮れて。それで編集してるわけじゃない。寄り引きがあるわけよ。昔だったら、そんなバカなというか。こんな自然にしゃべって寄り引きがあるってどういうことって思いますよね。今だからそれができるわけで。それを考えると、世の中の一般の視聴者があれに慣れてきたら、口語体で一生懸命書いてる僕らはヤバイなというか、敵うわけない。考えさせられましたね。

澤本:『友パパ』は結構長回しじゃないですか、全カット。だから逆に編集してる感じが全然ないですよね。

山内:編集してないんですよ。だから編集早かったですよ(笑)。2週間ぐらいで終わっちゃいました。それは初めからやろうと思ってたことで。『ミツコ感覚』のときは2カメで撮ってるんですけど、次の映画は絶対1シーン1カットでいきたいなと。それで、1シーン1カットのいろいろな映画を見て研究して、台本のときからそれを想定して書いてないとダメだなということがわかって。だから、書くときからこのシーンは1シーンで、絶対に割らないという風につくっていきました。

澤本:そう、割らないから変にリアリティがある。舞台を見てるような感じで映画になっていて、舞台が何カットか編集されているうちに映画1本になっちゃったという感覚があって、そこが面白かった。でも、あれでやると人の出入りが大変じゃないですか? 事前に計算してやらなければいけなくなるから大変ですよね。

山内:そう。あとは最初の人物の位置ね。そういうのが大事になってくるんですよ。でも、初めてやったわけじゃなくて、ヨーロッパの映画は1シーン1カットがときどきあります。日本の自主映画もそんなに珍しくない。『SR サイタマノラッパー』など、結構あります。

次ページ 「正常と異常の境目はどこにあるのか?」へ続く