【前回コラム】「昨今のデジタルマーケターの「転職」や「独立」から考える日本企業の人材育成」はこちら
日本企業が長らく低迷から抜け出せないのはなぜ?
前回のコラムでは日本企業においては、なかなかデジタルマーケティングに取り組んでいる人材が評価されにくい構造になっているのではないかという話を紹介させてもらいましたが、実はそれ以前に、そもそもの日本企業の組織構造について直球の問題提起があります。
このコラムでも何度か昨年10月に開催された「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2015」の話題を紹介しましたが、実は一番印象に残ったのは、サミット前夜祭の時の逸話でした。
それはサミット日本開催の立役者でもあるネスレ日本の高岡浩三社長が、フィリップ・コトラー氏に「日本企業がこの20年長らく低迷から抜け出せていないのは、なぜなんだ?」と問われた時のことです。
高岡社長は個人的な推論としながらも、明確に「日本企業が長らく低迷から抜け出せていないのは、高度経済成長期に構築された終身雇用と年功序列の企業システムによって、組織が縦割りの硬直した構造になり、その中でも特にセールスもしくは製造現場しか経験していない、顧客視点での『マーケティング』の見識がないサラリーマン経営者が社長をしているからだ」と論じていました。
マーケティングのイベントの前夜祭ですから、「マーケティング」という分野の重要性を強調するのは当たり前の話かもしれませんが、この問題提起はサミット全体を通して世界の登壇者からも投げかけられていたように感じています。
実際、以前「失敗を許容できる組織でなければ、デジタルマーケ時代は生き残れない」というコラムで紹介したUSJの森岡毅さんも「日本はマーケティングのレベルが低すぎる」とはっきりと明言されていました。
「マーケティング」という単語だけを聞くと、海外の言葉ですし日本企業には昔から存在しなかった分野の話のように聞こえるかもしれませんが、実は、戦後の日本の経営者には当然のようにマーケティング視点が備わっていたという議論がよくされます。それは、そもそもマーケティングという単語はマーケット+ingつまりは市場+ingという言葉であって、宣伝や広告のことだけを表しているのではなく、市場創造と翻訳した方が正しい言葉だからです。
サミットにおいてはコトラー氏を始め多くの登壇者がマーケティングとは「顧客の問題解決をする」ことである、と定義していました。つまり、顧客の問題を解決する商品やサービスを提供することができれば、そこに市場が生まれ、顧客が集まってくるという、ビジネスにおける非常に重要な考え方です。
松下幸之助氏や本田宗一郎氏そして盛田昭夫氏などの昭和の伝説的な経営者は、この「顧客の問題解決をする」というマーケティングの視点を本能的に持っている経営者だったと言えます。
例えば、松下幸之助氏は、初期の頃に開発した画期的な砲弾型電池ランプをどこの問屋も取り扱ってくれないという苦境において、社運をかけた1万個の製品を小売店に無償で置いて回り、結果が良ければ買ってもらうという画期的な実物宣伝に挑戦することで、その商品をヒット商品に育て上げたという逸話があります。
また、本田宗一郎氏があるべきバイクの姿を海外のバイクを参考に議論した結果、スーパーカブというエポックメイキングなバイクを誕生させ、日本だけではなくアメリカでのバイクのイメージを一新してしまったことは有名な話ですし、ソニーの盛田昭夫氏が当時誰もそんなニーズがあると想像していなかった音楽を外に持ち出すという隠れたニーズに対してウォークマンという画期的な商品を発売する功労者であることはご存じの方も多いでしょう。
従来の日本企業には、「マーケティング」という部署やマーケティング責任者であるCMOこそ存在しなかったかもしれませんが、昭和の伝説的な経営者は、顧客の問題をどうやって解決するか、またその解決する手段をどのように顧客に知ってもらって市場を作っていくか、という本来の「マーケティング」の視点を当然のように持っていたからこそ成功してきたわけです。
それが、高度経済成長期に合わせた縦割り型の組織構造によって、大企業の経営者が自分が出世してきた組織によって知識が狭くなってしまったり、幅広いゼネラリストになりすぎたりして、マーケティング的な視点を失ってしまっている、というのはある意味皮肉な構造と言えるかもしれません。
コトラー氏も、サミットのセッションで、技術者を中心にモノづくりをすると、どうしても「技術者が作りたいもの」を開発してしまう。本来は、「顧客の問題解決をするもの」を開発しなければ顧客が選択するわけがない。そのために重要なのがマーケティング責任者なのだと強調されていました。
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