宇宙船の外に出て行う船外活動は怖くないの?
野口:はい、3カ月に一度ぐらい連絡船があるんですね。連絡船で食料、服、新しい実験道具、それから家族の手紙などがやってきて。定期船が帰るときは地球の大気圏に突入して燃えるような材質にしてあるので、そこにゴミを入れるんですね。ゴミもそういう意味では焼却して、地球に戻すという非常に大きなサイクルになっています。
中村:番組としても聞いてみたかったのは、船外活動を3回体験されていて、生で宇宙から地球や宇宙空間を見られたわけですが、見る前と後では意識の変化がありましたか?ある人もいると聞きます。野口さんにとってはセンセーショナルなものでしたか?
野口:そうですね。宇宙に行って、最初はスペースシャトルの窓越し、あるいはカプセルの小さな窓越しに見る。それはそれで地球はキレイですけど、船外活動、宇宙遊泳で外に出たときにヘルメットのバイザー越し、あるいはグローブ、手袋があって、手袋越しに真空の世界にさらされている手すりや宇宙船の外に触っていくわけですが、そうすると形式として美しい地球ではなくて、立体感のある宇宙空間なわけです。当然、真空だから何もないんだけど、真空の冷たさや光の強烈さによって単なる景色ではない立体的な地球、立体的な宇宙体験になるという気はします。
権八:素朴に思うんですけど、その瞬間、怖くはないんですか?
野口:特に、船外活動の場合では目の前というか、足元の400キロ下に地球が回っているわけで、その間に何もないわけですね。ですから、何となく断崖絶壁にロープにつかまっているような錯覚に陥ることがないかというと、実はあるんです。ただ、自分が目で見ている世界と、実際に自分が触っている宇宙ステーションの質感というんですかね。
そことのギャップをうまく埋めていければ、手を離しても落ちないという感覚になります。自分が今、この瞬間、地球のまわりを回っている星なんだと。だから、宇宙ステーションにつかまってないと落ちるんじゃなくて、手を放したとしても自分は星なんだから、地球のまわりをまわってると、ふと腑に落ちる瞬間があって、そこからあとは怖くないわけですね。地球のまわりを踊ってるわけです。
澤本:回ってるというのはリアルで、すごい勢いで本当に回ってるわけですよね。
野口:そうですね。秒速8キロでまわってるので。
中村:それも何となくわかるんですか? 他の見えるものとの関係で。
野口:わからないですね。自分が秒速8キロで飛んでることもわからないし、スペースシャトルや宇宙ステーションがそのスピードで回ってることもわかりません。ただ、足元に見える、目の前に広がっている地球がそれぐらいのスピードで、東京から大阪まで30秒~40秒ぐらいのスピードで刻々と回っていくので、それに対して「あ、こんなスピードで日本列島があっという間に突っ切ってしまう」と。
中村:基本的な質問ですが、一回シャトルで上がると、時速0キロというか、ゆったりとした状態に宇宙船はなろうとして。なので、高速で回ってる地球を見ているという形になるんですか?
野口:そうですね。宇宙船自体は打ちあがって3、2、1リフトで上がった後、ひたすら加速して、エンジンの燃料がなくなるまで8分間、秒速8キロぐらいまでひたすら加速するんです。そうすると、その後6カ月間はそのスピードだけでずっと回ると。実は、ちょっとずつスピードが遅くなるので、加速のエンジンをふかすことはあるんですが、基本的には一度そのスピードがついてしまうと、空気の抵抗がないので同じスピードで回り続けます。そうすると、体感的にはスピードが0と言うと変ですが、ただ浮いてるだけなので、全くわからない。下の地球の動きを見て、初めてわかると。
澤本:宇宙に行った方々がよく急に人生観が変わって帰ってきたとかあるじゃないですか。その気持ちっておわかりになりましたか?
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