國田圭作×磯部光毅「人間の習性や行動メカニズムを使って人を動かす『行動デザイン』とは?」

SNS時代になって、「精神コスト」と「頭脳コスト」が肥大化した

國田:アクセシビリティは、エネルギーコストに関わってきます。人間の持っている有限なエネルギーコストをどこに振り分けるか考えた時に、遠いより近い方がコストが低い。実は考えることもコストだし、精神的にくよくよ悩むのもコスト。リスク感もコストにつながります。

磯部:著書の『行動デザイン』では、「5つのコスト」として、「金銭コスト」「肉体コスト」「時間コスト」「頭脳コスト」「精神コスト」を挙げていますね。リスク感というのはどういうイメージですか?

國田:特に今は、「精神コスト」「頭脳コスト」が肥大化しています。SNS社会になり、人と人との関係が緊密になる中で、他人にどう思われるか、みんな精神的にすごく気を遣っている。他人に嫌われるリスクを減らすためにコストをかけざるをえない。それが「精神的コスト」です。

例えば、テーマパークに友だちを誘うシチュエーションを考えてみましょうか。その時に人が一番不安なのは、友だちに「え!?何でそんなことを言い出すの?」と言われることです。「断られたらどうしよう」もありますが、「変な提案をした人だと思われたくない」もリスクなんです。だから「楽しいですよ」と発信するだけではダメなんです。

磯部:つまり、メジャー感があれば行くということですか?

國田:「お墨付き」ということだと思います。クライアントを食事に連れていく時、自分はおいしいと思っている店でも、食べログの評価が低ければ、そこには連れていけません。相手から、「なぜ、こんな店に誘ってきたのか?」と思われるリスクがあるからです。お墨付きということが、リスクを回避するすごく重要なツボだと思います。

磯部:その商品を選ぶことのコスト感やリスク感をどう下げられるかが、行動をつくる鍵だということですね。

國田:そうです。商品やサービスにははっきり言ってそれほど差がない。その中で選ばないといけないこと自体が大きな「頭脳コスト」になっています。つまり、面倒くさい。だから、案外そこにまだやりようがあるんじゃないですかと提案しているわけです。

磯部:面倒臭いし、時間もないから、鉄板のものしか選ばなくなってきていますよね。映画も『君の名は』くらい話題になると、動員数がパーンと何倍にも跳ね上がる。その一方で、僕は今年観た『シング・ストリート 未来へのうた』という映画がいいなと思ったんですけれども、Facebookに書いても反応してくれる人は少ないです。

國田:でも、鉄板を求めてばかりいると、新しいものとの出会いがなくなる。そう考えれば、セレンディピティ(意図しない出会い)を生活の中に創造することにも、逆にビジネスチャンスが生まれてくると思いますよ。

コモディティ化に対抗する戦略のひとつは「非再現性」

國田:次は「コモディティ化」をテーマに話します。最近、あらゆるもののコモディティ化が進む中で、なんとかそこから脱却しようと、みんな四苦八苦しています。

磯部:コモディティ化は超悩ましい問題です。僕らの敵は、実は競合ブランドではなくて、コモディティ化です。なぜなら、ほとんどの商品カテゴリーで、お客さんはどれでもいいと思っているのですから。僕はプランニングしている時間の7~8割は、コモディティ化に対する戦い方を考えている気がします。

もちろん圧倒的に差別化された商品があって、お客さんの関心を惹きつけられるならそれに越したことはない。でもそれがなかなか難しい中、コモディティ化に対する一番の戦い方は、ど真ん中商品として見せることで、「これを選べば間違いない」と思わせることだと言われています。ただし、チャレンジャーブランドがど真ん中になるのはすごく難しい。だから、「ネクスト・スタンダードはこれです」という打ち出し方で戦うことが多いですね。

それとは別に僕が最近いいなと思った事例は、今年の夏、お台場でDMM.comがチームラボと行っていたデジタルアートイベント「DMM.プラネッツ」です。雨の中、260分待ちでもヤングたちが嬉々として並んでいるんです。それは、圧倒的な体験だからですよね。ポイントは「非再現性」だと思います。コモディティ化によって、コピーできるものの価値が急激に下がってきた。再現性が前提とされているマスマーケティングの中に、いかに非再現性を組み込むか。それがたぶん、コモディティ化に勝つコツなんです。

國田:唯一無二の体験を創り出すことでしか、コモディティ化と戦うことはできないという感じですか。

磯部:そうです。例えば、映画はDVDでも見られる。だから、3D上映会とか、爆音上映会とか、その場でしか体験できないものにして、非再現性を持たせていますよね。「季節限定商品」も、典型的な「マスマーケティングの中の非再現的商品」です。未来は、きっとコピーできるものは限りなくゼロ円に近づいていくでしょうが、商品でも、コミュニケーションでも非再現性を取り込んだ工夫が必須になると思います。

次ページ 「すぐ隣にある日常行動に乗っかる「レーン・チェンジ法」とは?」へ続く

前のページ 次のページ
1 2 3 4 5
磯部 光毅
磯部 光毅

アカウントプラナー
1972年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、1997年博報堂入社。ストラテジックプランニング局を経て、制作局(コピーライター)に転属。2007年独立し、磯部光毅事務所設立。主な仕事に、サントリー「JIM BEAM」「ザ・プレミアムモルツ」「伊右衛門」「伊右衛門特茶」、トヨタ自動車「G's」、ダイハツ「タント」、コーセー、KDDI、Google、味の素、AGF、花王、ティファニー、ブリヂストン、三井不動産、カルビーなど。ブランドコミュニケーション戦略を核に、事業戦略、商品開発からエグゼキューション開発まで統合的にプランニングすることを得意とする。受賞歴にニューヨークフェスティバルズAME賞グランプリ、ACC CMフェスティバル ME賞メダリストなど。著書に『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』(共著、宣伝会議、2013年)、『アジアマーケティングをここからはじめよう』(共著、PHP出版、2002年)、『ニッポンの境界線』(共著、ワニブックス、2007年)がある。

磯部 光毅

アカウントプラナー
1972年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、1997年博報堂入社。ストラテジックプランニング局を経て、制作局(コピーライター)に転属。2007年独立し、磯部光毅事務所設立。主な仕事に、サントリー「JIM BEAM」「ザ・プレミアムモルツ」「伊右衛門」「伊右衛門特茶」、トヨタ自動車「G's」、ダイハツ「タント」、コーセー、KDDI、Google、味の素、AGF、花王、ティファニー、ブリヂストン、三井不動産、カルビーなど。ブランドコミュニケーション戦略を核に、事業戦略、商品開発からエグゼキューション開発まで統合的にプランニングすることを得意とする。受賞歴にニューヨークフェスティバルズAME賞グランプリ、ACC CMフェスティバル ME賞メダリストなど。著書に『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』(共著、宣伝会議、2013年)、『アジアマーケティングをここからはじめよう』(共著、PHP出版、2002年)、『ニッポンの境界線』(共著、ワニブックス、2007年)がある。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ