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電通 古川裕也さんが振り返る 2016年 国内外の広告賞審査会【前編】

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Clio 2016 Film Jury Chair(審査委員長)として

ドラマ『マッドメン』の中で、主人公のクリエーティブ・ディレクターがクリオを受賞するシーンがある。その頃は、マジソン・アヴェニューが近くにあったこともあって、カンヌより格上だった。今も変わらないのは、表彰式の派手さ。一昨年、エージェンシー・オブ・ザ・イヤー受賞のスピーチをしたときはMCのウーピー・ゴールドバークにハグされるという得難い体験をした。

今年前半ずっと憂鬱だった理由がこの審査。アジア地域のアワードのプレジデントは一度経験したけれど、ほんとのグローバル審査でしかも、なんのかんの言って、アワード全体からするといちばんメジャーなフィルム・カテゴリー。実は少し英語勉強しました。と言っても正攻法だと間に合わないので、審査員長的な表現だけ覚えていった。とはいえ、なんとかなったのは、クリオは事務方女子が優秀なのと、審査員みんな例外なくいい人だったから。

よかった。

最近のフィルム・カテゴリーをひとことで言うと、confusionということになるだろう。カンヌで2回目のフィルム審査をしたのが、2014年。テレビCMだけの審査だったほんの10年前と違って、オンライン・フィルムだのヴァイラル・ムービーだのブランデッド・コンテンツだのがサブ・カテゴリーでぶらさがっている。

結果、そもそもフィルムとは何かとか、CMとショートフィルム同じクライテリアでいいのかとか、2時間にいちどくらい立ち止まることになる。今回もそうだった。ただ、審査員長としては、クライアント課題を解決するためのフィルムのアイデアとエクゼキューションが優れて新しいか、それだけにしぼって審査するように、その都度宣言するしかない。サブ・カテゴリーは、その手段がCMかショートフィルムかケース・ヴィデオかの違いにすぎない。

「そもそも」に何度も遡って議論するのは、実はとても有意義だった。フィルム状況のようなものはアメリカとイギリスとオランダとアルゼンチンと南アフリカとロシアと中国と日本では全然違うようだ。日本はチャンスの多様性という意味でとても恵まれていると思った。

タイミング的にか、Harvey NicholsとUnder Armourが出品されていなかったこともあって、グランプリは、Old Spiceの新シリーズ。世界的ビッグ・ヒットの次のシリーズという、いちばんタフな状況でこれほどのレベルでローンチしたということが評価された。

Under Armourの優れたところが、コピーとクラフトとオンエア前のツイッターの使い方にある以上、フィルム的には、Harvey Nichols (万引きのやつです)で無風だろうと思っていたので、審査員長技術的にちょっと厄介だった。実は、去年グランプリ該当作なしだったらしく、今年はその手も使いにくい。なので、投票前にメッセージだけ伝えることにした。

「ゴールドまでは、今年のフィルムだけの比較で決めていいけれど、グランプリは歴史なので意味が違う。これまでのグランプリと比較して遜色ないと判断できるものがあったら、それに投票してください」と。結果Old Spiceが10分の7票獲得した。
 
フィルムは、ケースヴィデオのように他の要素が入ってくる余地がまったくなく、時間という額縁の中の制限芸術なので、「いい」と「だめ」がはっきりしている。ごまかしがきかない。表現だけの競争という、今では貴重なカテゴリーになってきている。

後編に続く