コラム

スポーツ経営に学ぶ 常識を超えるマーケティング発想法

常識を超えるマーケティング発想が求められている

share

「勝敗を問わず球場に行きたくなる仕掛けが必要」

私は2011年12月に横浜DeNAベイスターズの球団社長に就任してから、5年間に渡って数々の改革を断行してきました。売り上げは倍増、観客動員数は約80%アップ、球団史上最多となり、24億円の赤字から一転、約10億円の黒字化を達成させました。昨年10月16日に退任した後は、ありがたいことにスポーツ業界に限らず、さまざまな業界の経営へのお誘いの声を多数いただいています。

2004年の球界再編でパ・リーグは改革に舵を切り、セ・リーグは旧態依然としている――。多くの方は、そんなイメージをお持ちだったかもしれません。野球界のしがらみを打破したイメージを私に抱いてくださっている方が多いことを、辞任後さまざまな方からのお声で実感しました。

近年は“ボールパーク化”が業界の掛け声のように話題に上がることが多く、とてもよいことにさまざまな球場でお客さんがより野球を楽しめる工夫が施されていくようになりました。しかし、私が球界に参入する以前の球団経営に蔓延していたのは、「野球をみせる」という顧客視点やファンサービスを重視しない、プッシュ型の企業姿勢。その根底にあるのは、よりよい野球を観せ、勝利することが一番のファンサービスだという固定観念。それが球界の常識だったように感じていました。

a1

よりよい野球を観せ、勝利することが一番のファンサービスだという固定観念。それが球界の常識だった。
画像提供:123RF

日本のNo.1スポーツとして積み上げてきた成功事例と常識をなぞれば、これまで通りある程度はうまくいき続け、大きな失敗もしません。ところが、時代と環境は自らを超えて大きく変化します。長く常識の範囲内に留まってきたことで、時代の変化や環境の変化を自ら自身で超えてしまうことができるほどの非常識に挑戦してこなかったために、現在は子供たちが野球から遠ざかり、サッカーやバスケが伸びる一方、未来のプロ野球に資する競技人口にすら不安を覚える状況に陥っています。

もし、野球のことを心底考えるのであれば、子どもたちが野球をやる環境を整え、20年後の未来までつくり出さなければいけません。私が横浜DeNAベイスターズで取り組んできたのは、「野球ファン」を超えて、多くのライト層の方々に野球を観せることや多くの子どもたちに野球に触れてもらうことを主軸に、「経営」に注力するという、セ・リーグのみならず、球界における常識を超えることでした。野球を好きな人以外にも、積極的に“すり寄って”アプローチしなくてはもはや未来はない。「野球をつまみ」にして、スタジアムでビールや飲食や会話や雰囲気を楽しんでもらい、ライト層を開拓し、マーケットを拡大する。地域に密着し、関心を拡大し、観る人を増やし、野球に接する人を桁違いに増やすこと。
「観る」の先に「競る」があります。

生のライブの感動に触れることが先ずは一番大切です。だから球場に来てもらうことが何より先決です。そして、新時代のスポーツビジネスのスタンダードを創り出すことでした。

スポーツには、何が起こるかわからない、シナリオを描けない醍醐味があります。スポーツビジネスを考える上では、その競技面の部分はあくまで経営者や経営が完全にコントロールできることではなく、それにとらわれるのではなく、「コントロール可能な領域」、つまりグルメやグッズ、イベントなど、野球の周辺にあるすべての「顧客との接点」におけるコントロール可能な領域で、提供するサービスすべての質を高めなければなりません。他のエンターテイメント業界やサービス業界を超えるレベルで「顧客主義」を実践し、そして「横浜の野球場」を、日本を代表する、野球界を牽引する「ボールパーク」にしなくてはなりませんでした。

たとえば球場で選手の名前を冠した弁当を1500円もの高値で販売しているのであれば、選択肢が他にないから買わなくてはいけないという高飛車な姿勢を捨て去り、弁当自体に顧客が感動するストーリーが必要になってきます。おいしさの追求は言うまでもなく、開発に選手がどのように絡み、弁当自体に選手との親和性がいかに表現されているのか。そして1500円も出すのだから、デパートで購入する1500円のお弁当と肩を並べる味にも評価をいただかなくてはなりません。お客さんはそのストーリーとクオリティに共感し、心が動かされることで、価格を受け入れます。

12694751 - draft beer

「野球をつまみ」にして、スタジアムでビールや飲食や会話や雰囲気を楽しんでもらい、ライト層を開拓し、マーケットを拡大する必要がある。
画像提供:123RF

「1500円出したら、もっとうまい弁当を買えるだろ」と不満を抱きながら購入し口にしてもらうのではなく、「野球チームなのにすごい弁当じゃん。野球らしくて面白いな」と感じてもらわなければいけないのです。そう感じてもらえることで、価格への意識は二の次となり、価格が顧客に需要されるのです。

従来のスポーツビジネスでは、競技面への注力が経営面よりも高く、経営自体を勝敗という自分たちでコントロールできない領域に左右されてきました。極端に言えばそれでは、負けてしまえば、お客さんに再び球場まで足を運んでもらうことは難しくなります。

球場に行くことが楽しいと思われるには、勝敗に問わずリピートしたくなる仕掛けが必要になります。そのために、自分たちでコントロールできる領域は全てコントロールし、提供する全てのサービスの質を追求しなければなりません。日本人が苦手な「顧客主義」をマーケティングを軸に追及し、最高のエンターテイメントビジネスに、パラダイムシフトさせる。それこそが、スポーツビジネスの神髄なのです。

池田 純 氏

1976年1月23日、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業後、住友商事、博報堂を経て、2007年にDeNAに入社。執行役員マーケティングコミュニケーション室長を務める。2010年にNTTドコモとDeNAのジョイントベンチャー、エブリスタの初代社長として事業を立ち上げ、初年度から黒字化。2011年に横浜DeNAベイスターズの社長に史上最年少の35歳で就任。5年間で数々の改革を行ない、売上は倍増、観客動員数は球団史上最多、24億円の赤字から5億円超の黒字化に成功。2016年10月16日、契約満了に伴い、横浜DeNAベイスターズ社長を退任。現在はJリーグ特任理事、明治大学学長特任補佐や複数の企業のアドバイザーを務める一方、Number Sports Business College(NSBC)を開講するなど、10以上の肩書を持つ実業家として活躍している。著書に『空気のつくり方』(幻冬舎)、『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方 35歳球団社長の経営メソッド』(文藝春秋)ほか。
HP→http://plus-j.jp/

Follow Us